2004.09.02

CLASSICS

グスタフ・マーラー 交響曲第4番ヘ長調(1900年)

1楽章だけでゆうに30分を超えるような長大な交響曲の多いマーラー作品の中でも、比較的演奏時間が短く、どちらかと言えば単純でしかも声楽もありというこの第4交響曲は、全10曲ほどの交響曲の中でも親しみやすい曲です。マーラー入門ベスト3とでもしておきましょうか?今日は、この曲をじっくりと聴いてゆきましょう。

 かつてNHKのBS番組「クラシック・ロイヤルシート」のオープニングにも使われていた、鈴の音から始まるメルヘンチックな冒頭が印象的です。といっても、初演(1901年)の時は、この音に馬鹿にされたと感じた聴衆には大不評だったそうです。当時はまだまだベートーベンなどの古典が幅を利かしていた時代ですからねぇ。現代人のわれわれには逆に環境音楽のように自然に耳に入ってくる4楽章構成のこの曲。ところが慣れ親しむにつれこの曲は、古典交響曲の姿を借りながらも、悪意に満ちたアイロニーであることが次第に明らかになってきます。この冒頭の鈴の音は、実は道化の帽子についた鈴の鳴る音で、「これから始まるのは、すべて偽りの世界なのだよ」と語り始めるのです。怖いよー

 おどけたような第一主題やすこしロマンティックな第2主題のつらなるソナタ形式のつなぎには、お得意のファンファーレによる葬送行進曲が顔を覗かせるかと思えば、続く第二楽章ではなんと「死の舞踏」が始まります。長2度高く調弦されたヴァイオリンを引くのはベックリーンの自画像に現れる死神。有名な第5交響曲第4楽章のアダージョにも似た美しい旋律の第3楽章も、彼のおはこである「突発」により、その美しさが地上のものではなく、すでに天上のものとなっていることを教えてくれます。つまり死んでしまってるんですよね、気がつくとすでに。全曲のクライマックスを早くも第3楽章で迎えるのですが、(声楽の第4楽章が実は前作の第3交響曲からはみ出し、この楽章のために生まれたのが第4交響曲なのです!)それはやはり雲間の光のように、一瞬にして消えてしまい、「完全に死に絶えるように」という尋常ではない指示に従って、第4楽章へと消えゆきます。ふたたびメルヘン色の第4楽章終楽章では、クラリネットによる短い前奏の後、美しいソプラノ独唱が始まります。しかしこの歌曲の歌詞が驚くべき毒が盛り込まれているのです。(歌詞の内容は、国内版CDをお求めになってご確認ください)そして彼はソプラノ歌手に対し、「子供らしい明朗な表現で、絶対パロディなしで」と指示をしています。ちょっとお待ちよ車屋さん!これは曲そのものがパロディであることの証ではないでしょうか?「すべてが喜びに目覚める」という結びの歌詞に反して、最後はコントラバスの重低音だけが残り、天上の平安ならぬ静かな死の沈黙の中に消えてゆくのです。

 彼なりの交響曲という答えを、歌曲と器楽の間に求め揺れ動いていた初期3作(習作「嘆きの歌」を含めると4曲)のひとつの答えとして、彼が伝えようとしているのは、彼の生きた時代、つまり19世紀の終わりには、先達ベートーベンが築きあげた「苦悩から歓喜へ」「闘争から勝利へ」という交響曲の枠組みが、そろそろ限界を見せ始めていると言うことでしょう。世紀末を覆っていた「死」というテーマとの対峙ももちろんはずせない要素ですが、彼や同時代のニーチェのように、大声で正論を唱えようとすると、声がうわずり裏返ってしまうような、そんな彼の生き様も垣間見えます。

 この曲に続く第5交響曲からは、純器楽交響曲が続くいわゆる中期作品群にと移行してゆきます。

[CD聞いてみてちょ!]
■バーンスタイン指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
マーラーの抱いたイメージに最も近い、天上を漂うような名演です。曲間のスピードコントロールも絶品、さすがは「マーラーならバーンスタイン!」。最夜から最後まで男気バーンスタイン節(後期?)が貫かれています。ただですね、ソプラノがボーイソプラノなんですよ!なんかこう、違和感があるのです。パロディの外にパロディを配置したように聞こえるのは私だけでしょうか?60年ニューヨーク・フィルとの録音は普通のソプラノらしいのですが・・・
1987年6月録音 POCG-30004

■カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
良くも悪くもカラヤン&ベルリンの音です。美しいです、奥ゆかしいです。ベルリンフィルらしく曲自体はやや低音側にシフトしており、しっかりした安定感と引き換えに、天上の浮遊感はやや薄れています。ただ、独唱にはソプラノを起用してて、曲としての美しいまとまりは、さすが「美の伝道師カラヤン」の面目躍如といったところでしょうか?作曲者の苦悩とか、世紀末の思想とか、とにかく世知辛いことにはこだわりのない方には、無難な選択かも。個人的にはどうもプッチーニと重なってしまって・・・(喋々婦人他)
1979年1月、2月録音 POCG-7081

■アバド指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
重厚なベルリン・フィルと対照的なシルクのような弦を響かせるウィーン・フィルを率いて、天上を漂うような美しさを出しています。独唱には、カラヤンとは違ってメッゾ・ソプラノを起用し、シルクの雲間を漂う天使のようなサウンドとなっています。バーンスタインと違って、男臭さのないピュアーなサウンドは、初めてこの曲を聞かれる方、特に女性の方にはお勧めかもしれませんね。というか、「男はだまってバーンスタインを聞いてください」と言うことですか・・・
1977年5月録音 POCG-4045

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