2005.02.09

CLASSICS

セルゲイ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18 (1901年)

いよいよ「ラフマニノフ」にいくことになりました。なぜかちょっと緊張ぎみではあります。

ピアノ協奏曲といえばベトの5番にチャイコの1番、あるいはモツの21番あたりがポピュラーですが(すいません省略形で)、別の意味でポピュラーと言えるのがラフマニノフの2番と3番です(と、言い切っていいのだろうか?)。ある知人が、「チャイコはクラシックだけど、ラフはポピュラーだよね!?」とおっしゃっておられましたが、はたして何がクラシックでどうなるとポピュラーなのか?という何気ない疑問をお持ちの方もたくさんおられるでしょう。かくいう私も、ジャンルと言うのはせいぜいCDを整理するときの大分類に過ぎず、聞くジャンルによってお酒やつまみが変わるわけではありません。まあ、おっしゃるとおりベートーベンやモーツアルトよりは、ポール・モーリアやパーシーフェイスに近い感じがするのは確かで、1945年のデヴィッド・リーン監督、シリア・ジョンスン、トレヴァー・ハワード主演の映画「BRIEF ENCOUNTER(逢びき)の全編を流れる第2番は、まさしく映画音楽そのものと言えます

映画自体は、それぞれ家庭を持つ中年男女の愛と別れを、甘さのない100%の純度で描ききっているのですが、えてして世俗的になりがちなありふれたテーマをピュアに進めるのに、この音楽の果たしている役割は大きいと思うのです。つまり、その音楽だけを聴くと「なんだ、ポピュラーか!」と思わせるような親しみやすい、甘く美しいメロディなのですが、実はちゃんと聴けば、そこにはかすかなロシアの香りの中に、リリシズムと秘められた熱い情熱を感じてしまうのです。そこが私にとっての、ポール・モーリアとの分岐点になっているのですね。

ちなみにデビッド・リーンを知らない人も、「旅情(55年)」「戦場にかける橋(57年)」「アラビアのロレンス(62年)」「ドクトル・ジバゴ(65年)」の監督と言えばお分かりになるでしょう。私はあえて、センチメンタルとかロマンティックとは申しませんが、お二人で甘く切ないメロディを楽しむもよし、私のように一人静かに彼のリリシズムに涙するもよし。是非是非、聴いてください。で、映画も見てください。


〔CD聞いてみてちょ〕
リヒテル(p) ヴィスロツキ指揮 ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団(1959年)
1945 年全ソビエト音楽コンクールに30歳で優勝、5年後の1950年には国家賞第一等を受賞した彼は、米ソ冷戦時代(って、知ってます?)の西側諸国にとっては、まさに幻のピアニストでした。1960年に初めて訪米し、我々の前に現れるわけですが、このアルバムはその前年にワルシャワで録音されたものです。ラフマニノフの音、いや彼自身の持つ切なさをそのままの色で弾き切っています。特に第2楽章のロマン溢れる抒情の表現や、全体を貫く出口のないやるせなさを、完璧な技巧と比類なき音楽性で聞かせてくれます。大人のためのラフマニノフ2番です。

アシュケナージ(p) コンドラシン指揮 モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団(1963年)
アシュケナージといえば、26歳の1963年、アイスランドに事実上の亡命をし、その後ピアニストだけでなく指揮者としても活躍し、今年N響の音楽監督に就任したことでご存知の方も多いはず。その亡命前後の録音であるこのアルバムでの彼の演奏は、リヒテルとはまた違った、若き苦悩に満ちた好演です。祖国ロシアを離れることの喜びと迷いがにじみ出ているような彼らしいリリシズムは、リヒテルよりもよりラフマニノフに近いのかもしれません。コンドラシン/モスクア・フィルもロシア的な金管を響かせる名演です。ロマンティックよりも、この曲の素朴な情念を伝えてくれる一枚です。純粋なクラシック・ファンの一枚かな?

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