2006.02.11

CLASSICS

パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第一番 ニ長調 作品6(1811年)

今日はまるで春のように穏やかな一日でした。時間はゆったりと流れ、にわか雨も優しく降り注いでいました。こんな日はやはり、ヴァイオリンを聞きましょう。ということで、久しぶりのクラシック投稿、今日はヴァイオリン協奏曲の5人目、パガニーニの1番です。

パガニーニはベートーベンより一回り年下。作曲家というよりは、音楽史上最も有名なヴァイオリニストでした。その超技巧ゆえ、当時の人々は彼を「ヴァイオリンの魔神」と呼んでいました。そういう意味では、リストに近いかもしれません。彼の演奏を聴いたかのマルクスは、「それはヴァイオリンの演奏ではなく、また音楽でもなく、魔術である。」と言ったそうです。

パガニーニのその特異な演奏ぶりは、いろいろと後世に伝えられています。ある時、演奏中に1本の弦が切れてしまった。彼は気にもせず演奏を続けたのですが、そのうち2本目が、そして3本目も切れ、ついに全ての弦が切れてしまった。でも彼のヴァイオリンは鳴り止むことがなかったというものです。まあ、全部の弦が切れたヴァイオリンが鳴る事はありえないのですが、それほど鬼気迫るものがあったということでしょう。また、このブログでも以前紹介したブラームスの友人のヴァイオリニストであるヨアヒムも、「今もしパガニーニが現れたとしたら、私はこのヴァイオリンを永久に戸棚の中にしまいこまなければいけないだろう」と言ったそうです。

パガニーニは単なる超技法だけでなく、甘美な二重フラジオレットや左手によるピチカート、あるいは急速なスタッカートや変化にとんだボウイングなど、さまざまな演奏法を考え出し、そしてそれらを表現するための曲を自ら作曲したのです。18世紀後半から19世紀前半のヨーロッパにおけるヴァイオリン界を席捲していた彼が、最初に作ったヴァイオリン協奏曲が、この1番でした。

この曲の独奏部はニ長調でかかれていますが、彼は半音高く調弦し、変ホ長調で演奏していたそうです。曲自体はあくまでもバイオリンの演奏を主体として書かれており、オーケストラの部分は比較的演奏も易しいといわれています。しかし、ヴァイオリンの演奏のほうは、前述の二重フラジオレットやスピカート奏法、急速な3度のダブル・ストッピングなど、恐ろしく困難な技法があちこちにちりばめられており、誰でもたやすく演奏というわけには行かないようです。しかし、全体的には南欧風の明るく甘美な旋律が続き、今日のようなふっと息を抜けるような休日にはぴったりの曲になっています。

ヴィヴァルディを彷彿させるイタリア的な明るさの中に、ぎっしり詰まった超技巧の狭間からこぼれ落ちる甘く切ないロマンチシズム。春を語るには早すぎるかもしれませんが、恋を語るにはぴったりの名曲です。

〔CDきいてみてちょ〕
■五嶋みどり(Vn) ストラッキン指揮ロンドン交響楽団
日本を代表するヴァイオリニスト、五嶋みどりの若干17歳の時の録音。ストラッキンのスティディなオーケストラに支えられた彼女は、決して技巧だけに走ることなく、この曲の持つ美しい色彩をきらびやかに演奏しています。幼さのない大人の香りの漂うその演奏は、完璧にクリアされた超技巧だけでなく、その表現力に感嘆してしまいます。カップリングのチャイコフスキーの「憂鬱なセレナード」も名演。ぜひぜひ、聞いてみてください。

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