2007.02.12

JAZZ

In A Silent Way by Miles Davis (1969)

マイルスの鉄壁のメンバーもこの頃入れ替わりがあったのはすでにお話したとおり。自分の音楽のスタイルを変えてゆくためには必要な、いわばダーウィンの法則のようなものだったのです。1969年2月にスタジオ入りしたマイルスは、ショーター、コリア、ハンコック、ホランドに加え、ジョー・ザビヌルにジョン・マクラフリンを招聘。この年の一大イベント、ウッドストックに代表されるような、ロックやファンクにより近づいたこのアルバムを録音します。

新メンバーにはデジョネットを迎えながらも、このアルバムでは退団していたトニーを呼び寄せ、1曲目の「Shhh」では、メトロノームのような規則的なリズムを刻ませます。ホランドもいよいよフル・エレキベースで「ドドーン、ドドーン」と寄り添い、シンプルでかつ大地のようなどっしりとしたリズムを構築します。その上を、コリア、ハンコック、そしてザビヌルのキーボードが規則性を持たず浮遊します。マクラフリンのギターは、それら鍵盤音のさらに上を飛び交う。そこにマイルスがスパッと差し込んできます。新しいフレーズです。かっこいい、いや美しい。シャープであり、穏やかでもあり、大胆でもあり、ナイーブでもある。全2曲で構成されるこのアルバムの、1曲目と2曲目をつなぐかのようなザビヌル作の美しく穏やかなタイトル曲「In A Silent Way」は、月の表側と裏側のように、マイルスの表現を立体化する役目を果たしています。

素晴らしいメンバーを得たマイルスが、かの「カインドオブ」の時のように奇跡的な足跡を残したこのアルバム。当時、世評は真っ二つに分かれたようです。もちろん、カインドのマイルスしか信じないJAZZファンには、受け入れがたいものだったのでしょう。しかしマイルスは進化し、時代は70年代に向けて、モダンジャスもその姿かたちを大きく変えようとしていました。マイルス一人にモダンジャズの余生を託すような、そんな矮小な依存心は忘れ、変化する時代の中で、かつその時代をリードしようとクリエイトし続ける孤高のミュージシャンを、先入観やDNAを捨てて、ピュアに聴いてみましょう。一般的には、数作後の「Bithes Brew」をもって、マイルスが大きく変わったと言われていますが、影響を受けたのはJAZZシーンだけであり、御大がこれまでのJAZZにいよいよ「バイナラ」と別れを告げたのは、実はこのアルバムだったと私は実感いたしております。この年の7月、アポロ11号が月面着陸に成功。日本では新宿西口のフォーク集会で機動隊と衝突、金田投手が400勝をあげ、男はつらいよが始まりました。

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