2007.06.16

万葉の旅

吾背子は仮廬作らす草なくば小松が下の草を刈らさね  中皇命

わがせこは かりほつくらす かやなくば こまつがしたの かやをからさね

中皇命(なかつすめらみこと)が紀伊の温泉に行幸した折の歌だそうです。「あなたは今夜の宿にと仮小屋を作っておられるけれども、もしも屋根を葺く草が足りないようでしたら、小松の下の萱草をお仮りなさいませ」というような意味で、別に他愛はありません。松は霊力があるとされており、そのもとの萱草ならよいでしょうということです。逆に他愛のないところがこの歌のストレートに響いてくる理由なのでしょうね。以前ご紹介した熟田津の歌の額田王にも通じる、女性的でありながらかつ力強く訴えかけてくる歌ではないでしょうか。

この中皇命という人物、詳細は不明だそうです。賀茂真淵は舒明天皇の皇女で後の孝徳天皇の皇后である間人皇女だとしていますが、斉明天皇であるとも言われています。いずれにしても、高貴な香りのただよう歌です。

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