2007.11.28

今日の一休み

帰り路

街灯もまばらな帰り路
自動販売機に照らされて
道路工事のポールを3つ数え
壊れかけたガードレールの端で
暗い目をした野良犬に出会った

何かいいたげなその眼差しは
私の心の向こう岸まで
誰も知らない向こう岸まで
遥かに見通すことができるから
そんなに暗い目をしているのか

やけに低い男の声で
不思議な目をした野良犬が
私とのあいだにある
微妙な距離と薄明かりごしに
無用心な私に問いかけてくる

「何か、悲しいことでもあったのかい?
 俺にはなにも、してやれないけどね。」

そういい終わると野良犬は
2回ほどくすくすと鼻を鳴らして
ばつ悪そうに横を向き
どこへともなく歩き始めた

私は野良犬とは逆の方へ
いつもの私の帰り道を
何事もなかったように
歩き始めてはみたものの

ここままどこまでも
このままいつまでも
歩き続けたい衝動が
少し丸めた私の背中を
無言の両手で押してゆく

立ち止まり
目を閉じて
大きなため息一つ
咳払いをひとつ

「やれやれ、しっかりしろよな!」

後ろを振り返ってはみたけれど
そこにもうあの野良犬の姿はなく
ふと見上げた月のない夜空には
オリオンが悠々とまたたいていて

「もう、冬なんだな。
 秋は、終わったんだな。」

誰もいない帰り路で
夜更けの冷ややかさだけ
まるで独り占めするかのように
大きく息を吸い込んでみる

そして帰るべき路を
昨日も歩いた薄明かりの路を
私はまた歩き始めた

オリオンに見送られながら

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