2008.11.01

COLUMN

「まーくん」

まーくんという従兄がいます。従弟ではありません。私よりも20歳も年上。ですから従兄。一緒に遊んだ記憶は全くありません。

今日は、母と叔父叔母を連れて高知まで、先週に入院した彼の見舞いに行ってきました。

2年ほど前に脳梗塞を患ったまーくんは、長年勤めたタクシー運転手をやめ、自宅療養していました。今年の夏ごろから急に食欲がなくなったけれど、かかりつけの医者には「運動すれば、腹は減る!」と言われていたそうです。それでもどうも調子がおかしいので、念のため別の病院を訪ねました。

病名は、すい臓がん。余命2ヶ月。彼はそれを知りません。私なら、やはり告知してほしいな。残りの「我が人生」を、自分らしく生き抜くためにも。

2年ぶりのまーくんは、かつて若かりし頃、任侠の世界に身を置いたこともある、しっかりしたガタイも激しい気性と包容力のある笑顔も今はその影もなく、すっかりやせ細り、レースのカーテン越しに差し込む秋の日差しの中、真っ白なシーツにそっと置き忘れたもののように横たわり、弱弱しい微笑を投げかけてきました。

「早くよくなって、また遊びに来てね!」

彼はうなずき、すぐに目を手で被いました。

(彼は果たして知っているのだろうか?自分の病気を?自分の余命を?)

病院を後にして、歳が近く、昔よく一緒に遊んだ記憶を呼び起こしてか、叔父きは泣いていました。私は泣きませんでした。だって、まーくんは今、確かに生きているのだから。

夜、バッティングセンターに出かけた私は、別の「まーくん」と対戦しました。いつも通り、長打は出ましたが、ホームランは出ませんでした。

「やっぱり、まーくんにはかなわないや!」

私の頬には、涙が流れていました。拭っては、拭っては、思い切り振るバット、空を切るバット。彼とは野球をすることもなかったけれど。もうこれから、一緒に野球をすることもないけれど。

どうか、まーくんに奇跡が訪れますように・・・。

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