2005.02.27

CLASSICS

グスタフ・マーラー 交響曲第3番 ニ短調 (1896年)

怒涛のマーラーシリーズ第3弾。今回は第3交響曲です。日本を訪れる外来オーケストラのメインタイトルに最も多いマーラーのシンフォニーのひとつであるこの第3交響曲は、1895年から96年にかけて、ザルツブルグの東の湖のほとりにあるシュタインバッハという小さな村のホテルでひと夏を過ごしはじめて4度目の訪問で書きあげられました。実は95年の2月には、すぐ下の弟で同じく作曲家を目指していたオットーが自殺してしまいます。また、当時つまり世紀末の文化を支えた、ショーペンハウアー、ニーチェといった人間の理性的意識を超えた世界への志向と、世紀末の重苦しい空気の中で作られたこの曲には、以下のプログラムが添えられています。

総タイトル:夏の真昼の夢
序章:パーンの目覚め
第一楽章:夏が行進してくる
第二楽章:草原の花が私に語ること
第三楽章:森の動物が私に語ること
第四楽章:夜が私に語ること
第五楽章:天使が私に語ること
第六楽章:愛が私に語ること
第七楽章:子供が私に語ること(1986年に削除)

なんとこの曲は、当初第七楽章まであり、また最終的にも第六楽章まで備え、第四第五楽章には声楽をいれた、長大な交響曲と言うよりは一種の組曲となったのです。全体は、30分以上ある第一楽章を第一部とし、合計70分にも及ぶ第二〜第六楽章が第2部となっています。

骨子としては、第一楽章で岩山のような生命のないところに「夏」がやってきて、世界に命が生まれます。ついで第二楽章では植物が、第三楽章では動物が現れ、第四楽章には人間、それもこの世では癒されることのない苦悩を抱えた人間が現れます。そして第五楽章では、その人間が神との媒介者である天使に対し救いを求め、終楽章となった第六楽章で、神の愛が人間を救済するということになっています。これはただ、一般的に考えられるいわゆる「苦悩から歓喜へ」というようなポジティブな展開ではなく、存在すら否定する嘆きではなく、永遠に人生が繰り返すことを欲するためのひとかけらの快楽に身をゆだねること、そして最後に愛を語る主はやはり、キリスト教で言う神ではなく、己の存在そのものであるというマーラーの世界観、別名「ニーチェ交響曲」と呼ばれている所以なのです。

8本のホルンによるユニゾンで演奏される目覚めの呼び声から始まる第一楽章は、ケン・ラッセル監督の映画「マーラー」の冒頭でも、テーマと同じような描写の中で使われています。短い緩徐楽章の第二楽章と、距離感をおいて聞こえてくるポストホルンの音色が独特の第三楽章をへて、声楽の入った第四楽章になります。ここではニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」からの歌詞が歌われ、次の第五楽章ではマーラー自身の「少年の魔法の角笛」からの歌詞が歌われます。終楽章である第六楽章は、マーラー全作品の中で最も美しいと称されるアダージョで、一見神の愛に優しく包まれ、天上の世界に立ち上ってゆくように思えるのですが、どうも額面どおりに受け取ることが出来ず、なんとなく彼の持ち前のアイロニーが潜み、また苦悩から救われること、そのこと自体が神と言う絶対的なものの力によって静かに、しかし絶対的な力をもってして終息させている。そんな気がしてしまうのです。第5のアダージェットほどはポピュラリティはないですが、確かに美しい曲です。

この曲は、1902年ケルン郊外のクレーフェルトで初演され、大成功を収めます。観客の中には3ヶ月ほど前に結婚したアルマがいました。出会いから結婚にいたるまで、本当の意味でマーラーを理解していなかった彼女は、この初演に立ち会い、初めて夫の偉大さを知ることとなります。彼女の回想録からの引用・・・

「私の感動は言葉では言い尽くせぬほど大きかった。私は一人ひそかに泣き、また笑った。突然、私の最初の子供がお腹の中で動くのを感じた。私はこの作品によって、余すところなくマーラーの偉大さを確信するに至ったので、その夜、喜びの涙に咽びながら、この確信を彼に伝え、献身的な愛と永遠に彼のためだけに生きる決意を誓った。(これは数年後には破られるのですが・・・)」

[CD聞いてみてちょ!]
■バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック管弦楽団(1987)
前回の第2と同じく1987年録音のアルバムです。このアルバムでは、バーンスタインの無骨さと言うか重苦しいほどの男臭さはなぜかかなり薄まっており、特に最終楽章のアダージョなどはカラヤンさんのヨーロッパ録音のように美しく響いています。もしかするとこの曲の複雑な構成からすれば、ブーレーズのような構成主義的アプローチか、ワルターやバルビローリのような端正な青春ものの方がいいのかもしれません。ただ、まあ、マーラーと言えば一枚目はやはりバーンスタインですので・・・

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