2005.11.23

ART

一枚の絵画・・・[ルネッサンス前夜]

「エジプト逃避中の休息」ヘラルト・ダーフィット(1510)

今日は国民の祝日ですが、訳あって出社してました。でもまあ仕事らしい仕事をしたわけでもなく、緊張感のなさから言えばどちらかといえば休日みたいなもの。ですので、コラムはお休みにして、大好きな絵のお話をします。今日は、ダーフィットの「美しい青」のお話です。


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前回のファン・エイクに見られたネーデルラント独特の絵画様式をしっかりと引き継ぎ、当時すでに始まりつつあったイタリア・ルネッサンスの影響を拒みながら、ゴシック様式を独自に昇華させていったのがダーフィットでした。いわゆる「後期ゴシック」というものです。代表作「エジプト逃避中の休息」では、聖母マリアとイエスを優しく包む「蒼」と、少女のような親近感さえ感じる聖母の表情が、何の先入観もなく私たちを受け入れてくれます。また、穏やかでのどかな二人とは対照的に、用心深げなロバや聖ヨセフは逃避行という現実の厳しさをしっかりと伝えてきます。

「青」は個人的に最も好きな色なのですが、このダーフィットによって残された「青」は、数多い絵画作品の中でも私にとって最も美しい「青」のひとつです。ルネサンスの影響を拒んだとはいえ、中央の主人公達の安定と穏やかさに対し(図形的にも安定的な三角形をなしている)、別の意味要素を周囲にアンバランスに配置することにより、ゴシック的構築性よりもルネサンス的自然さをかすかに感じることが出来ます。メムリンクの後継者としてブリュージュの工房を引き継いだ彼は、基本的には率直で鋭い表現という北方絵画の伝統を守ってゆくことになります。しかし、ルネサンスという大きなうねりは、もうすぐそこまでやってきていました。

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