2005.12.18

CLASSICS

チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35 (1878年)

今日の日本列島は寒波にすっぽり包まれていました。幸いここ高松は、寒さだけで雪は降りませんでしたが、こんな日はおうちで暖炉の火でも眺めながら、クラシックなど聞いて過したいですね。雪に囲まれたシベリアの大地、今日はやっぱりチャイコですか!? じゃあ夕食は野菜たっぷりの「ボルシチ」で決まり! ちなみにうちには暖炉はありません。(笑)まあ、そんなこんなで今夜は、「3大バイオリン協奏曲+1」のおまけの1、チャイコのバイオリン協奏曲をご紹介します。

チャイコの協奏曲といえば、ピアノの1番が超有名ですよね。あの、チャチャチャチャーンで始まるあれです。で、彼がこのピアノ協奏曲を作曲したのが1874年、34歳の時でした。さっそく彼はこの曲を初演してもらおうと、当時を代表するピアニストでモスクワ音楽院の院長でもあったニコライ・ルビンシテインに献呈します。ところが彼の返事はつれなく「演奏にも値しない価値のない代物」というものでした。しかし彼はめげません。その3年後に今度はこのヴァイオリン協奏曲を作曲、これを当時のヴァイオリンの第一人者といわれていたレオポルド・アウアーに献呈します。ところがここでもピアノ協奏曲同様、「演奏不能」という理由で野ざらしになってしまうのです。

しかし、捨てる神あれば拾う神あり。ピアノ協奏曲がドイツの名ピアニスト、H・V・ビューローにより日の目を見たように、当時ライプティッヒ音楽院の教授だったアドルフ・ブロッキーにより、3年後の1881年、リヒター指揮ウィーン・フィルで初演されます。で、チャイコもこの曲をブロッキーに献呈して、めでたしめでたし、一件落着と相成ったのです。

さて曲のほうですが、実はウィーンでの初演の時、ハンスリックという批評家がこんな酷評を下していました。「我々は荒々しい品のない顔ばかりを見、粗野な怒鳴り声を聞き、安いウォッカの匂いを嗅ぐばかりである。フィッシャーは締りのない描写の絵画を評する時、「見ていると匂いを発する絵がある」と言ったが、この曲は絵画だけでなく音楽作品にも「聴くと匂いを発する曲がある」という恐ろしい考えを我々に起こさせた」どうです、ひどい書きようでしょう。でも注目は彼の言う「匂い」です。そう、この曲にはロシア民族の、あるいはシベリアの大地の発する「匂い」が思いのたけ込められているのです。

もちろんヴァイオリンの旋律は、チャイコお得意のメロディアスなものであり、シベリアの大草原を吹き抜ける疾風の様でもあります。ラロの「スペイン交響曲」に影響を受けて作られたという説もあり、芸術家としての精神表現よりもむしろ、民族性やロシアの心をめいっぱい表現した作品ともいえます。でも、そんなにウォッカ臭くないですよー、はい。確かにチャイコにしか作れないロシア風の味わいであり、それにとてもとても美しい曲なのです。暖炉の火がよく似合うのです。(・・・のはずです。)

〔CD聞いてみてちょ〕
■イツァーク・パールマン(Vn)オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団(1978)
名演です。快刀乱麻を断つがごとき超技巧ながら、彼独特の音色は優しく美しく、この難曲を操ります。「協奏曲の神様」といわれたオーマンディのサポートも素晴らしく、この名コンビにより、見渡す限りの大平原、冷たく透き通った空気の中から、この名曲を鮮やかに歌い上げています。ウォッカの香りもかすかにします。名演名盤です。

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■チョン・キョンファ(Vn)デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1981)
パールマンと同じ門下生で彼より3つ年下のキンファの演奏。このコンビは先ほどのロシア臭を極力排し、ひたすら美しいコンチェルトを奏でています。彼女のレコード・デビューがこの曲だったこともあり、メロディに対する思い入れはことのほか。デュトワもあくまでも控えめで透明かつ静謐なシンフォニーで彼女をサポートします。メロディ・メーカーとしてのチャイコをしっかり味わいたい方にはこちらがお勧めかも。さしずめアラスカか北海道の大雪原といったところでしょうか?

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