2006.01.15

ART

一枚の絵画・・・「ルネサンスからマニエリスムへ」

「聖マルティーナと聖アグネスを伴う聖母子」 エル・グレコ (1597)

16世紀になってやや陰りの見え始めたルネサンス、そこから生まれた様式というよりもむしろひとつの「芸術的立場」といえるものが「マニエリスム」です。ミケランジェロやラファエロといった後期ルネサンスから影響を受けたこのマニエリスムの特徴は、意識的に洗練された作風、しばしば不自然で誇張された優美さや鮮烈な色彩の採用、また技術のこれみよがしの誇示や奔放な構成であり、その代表的な作家(マニエリスト)が今日ご紹介するスペインの画家「エル・グレコ」です。


エル・グレコ

「エル・グレコ」とは、ギリシャ人という意味で、事実彼はギリシャのクレタ島出身で、ヴェネツィア、ローマと渡り歩き最後にスペインのトレドに居を構えます。彼の絵画は、そのスペインでのキリスト教の教義に大きな影響を受けており、当時の反宗教改革の神秘主義の影響により、情熱と抑制、宗教的情熱と新プラトン主義の狭間で開花します。また、クレタ島時代はイコン画家として修行しており、その後の彼の描いた世界は、実は全て「イコン」であったのかもしれません。つまりそこには、強烈な「祈り」の精神性が込められているのではないでしょうか。

この作品でも見られるとおり、彼の描く人物像は常に細長く、そして上方に向かって伸びています。極端な色彩の採用や情熱的とも思われる主題への傾倒が、彼の個性を際立たせています。最下方で自由を与えられている羊と制止を促されているライオンのいる場所が、私たちが暮らすことを許された世界そのものであり、私たちは自らの意思では決してこれ以上の上座へは進むことを許されません。そうして自分たちの居場所を理解したものだけが、作者エル・グレコによって上空へと導かれ、聖母の穏やかな表情や幼子イエスの至福に触れることが出来るのです。このように、押し付けがましさともとれる心理的コントロールによって、エル・グレコは作品と私たちを「彼の芸術」という架け橋を用意してくれているのです。「創造物に精神性を込める」これは、芸術のひとつのアイデンティティでもあります。

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