2006.04.24
「皇帝の戦略」
SARAH VAUGHAN IN HI-FI (1950)
新しい一週間の始まりです。社内清掃に朝礼に運営会議。今日の御題は「義」。社員さんたちの素晴らしいお話を聞かせていただきました。「義は人の道なり」、いいですねぇ〜、IT会社とは思えない朝礼でした。午後からはお客様訪問2件。今後ともよろしくお願いいたします。夕方には先週末予定の、私の都合で延期となっていた営業会議。昨夜は諸般の事情により就寝が遅かったので、今日は早めに退社しました。
昨夜はF1第4戦サンマリノGPがありました。実は私のブログの「F1 & Cars & Bike」が、丁度昨年の今頃、同じくサンマリノGPを最後に更新が途絶えていたのですが、1年ぶりのF1投稿です。いやー、皆さん見ました? すごかったんですよ、皇帝シューマッハとアロンソの30周近く続いたテール・ツー・ノーズ。思い起こせば昨年は、この二人、全く逆の立場だったんですよね。狭くて抜き場所のないアウトドローモ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ。昨年はアロンソがシューマッハを抑え、最年少ワールド・チャンピオンに・・・2006サンマリノを制したシューマッハ、今年は皇帝の復活なるのでしょうか?
41周目、シューマッハの後方にはりついたままのアロンソはラップは早いが抜けない。そこでチームはピットストップを先に行うという戦略に出ます。そしてクリアラップを取って、フェラーリがピットストップを終えたときには先行している・・・はずだったのですが、すかざず42週目にピットインしたシューマッハがぎりぎり頭を押させるという、戦略的にもはらはらドキドキの展開でした。今年でフェラーリとの契約が切れるシューマッハ。本当はイタリア人ドライバーを乗せたいフェラーリ。虎視眈々と跳ね馬のシート狙っている新世代のドライバーたち。そんなこんなの駆け引きも裏ではうごめくF1サーカス、5月7日舞台をドイツはニュルブルクリンクに移しての第5戦となります。ところで我がザウバーはというと平均速度でTOPと3km/h差、周回遅れぎりぎりの、まあ予選並みの戦績でした。国際映像には写るチャンスも少なくて・・・どっかの赤白ユニフォームのプロ野球チームみたいなものですね・・・トホホのホです。
さて今夜はマイルスさま第2夜。で、「Sarah Vaughan」です。えっ? マイルスじゃないの? いえ、物語は「マイルス、帝王への道」です。「サラ・ボーン」と読みます。知ってる人は知っている、知らない人はまるで知らない、有名なJAZZボーカリストです。アルバムは「SARAH VAUGHAN IN HI-FI」、そうです、「HI-FI」ですから・・・時代を感じます。で、アルバム自体は48年、50年、51年、53年の4年分をまとめたものですが、帝王が参加しているのはこのうち50年のジミー・ジョーンズ・バンドの伴奏分。そうです、帝王も当時はしがないバンドメンバーの一人、それもヘロイン買いたさのやっつけ仕事なのです。ちなみに51年の伴奏はかのパーシー・フェイスでした。
なぜ帝王様はヘロインなどに手を出したのか。答えは簡単です。回りがみんなやってたから。それじゃー帝王たるもの、その辺の「正しいJAZZミュージシャンたち」と同じだったのか・・・いや、実はこれには涙なくしては語れない、深いわけがあったのです。
マイルス様は「クールの誕生」のあと、何事もなかったかのように、しゃーしゃーと元のジャズに戻ります。詐欺にも近い行為ですが、帝王が詐欺師であるわけがありません。単に気が変わっただけです。帝王は常に正しい人なのです。そして49年春、ピアニストのタッド・ダメロンとの双頭コンボでフランスに渡り、先輩バードのバンドとの一騎打ちをやります。この辺は公式アルバム「In Paris Festival International De Jazz」に納められているようです。(私は持ってません)ダメロンももちろんジャンキーだったのですが、問題はそれよりもこの訪欧自体にあったのです。
客人として迎えられた帝王様は、この地でさまざまな人に出会います。サルトル、ピカソ、そして運命の人(?)ジュリエット・グレコ。そして帝王様は彼女との恋に落ちてしまうのです。二人はセーヌ川のほとりを散策し、カフェで語らう。まさに「April In Paris」を地で行ってしまわれたわけです。そして「断腸の思い」でパリを去ります。偏見の少ない、いや故郷アメリカと比べればないに等しい、そしてジュリエットの住む花の都パリ。一方のニューヨークには「クール」をコピーした白人以外には仕事は何一つない。断ち切れぬ彼女への想いと、明日を知れぬ絶望の日々。ゴードン、ダメロン、ブレイキー、ジョンソン、ロリンズ達と共に、こうしてハーレムの片隅で彼はヘロインにおぼれていったのです。恋に身をやつすジャンキー、マイルス・・・いや、ただ「よかった」だけかもしれません、ヘロちゃんが。
仕事はないがヘロインは必要。何はなくても、ヘロインは必要。ジュリエットがいないから、ヘロインが必要。こうして洋服から楽器まで身の回り物は全て質に入れ、友人の財布から金品を掠め取り、ひたすら打ち続けます。帝王です、やっちゃいます。仕事? あればなんでもやります。ゲージュツだのプライドなどの問題ではない。ヘロインです。帝王=ヘロインです。しかも帝王だから怖いものはありません。そんな彼がありついたのがこの伴奏の仕事だったわけです。
で、実際の演奏はというと、全12曲中の7曲に参加しています。ただ、参加してトランペットを吹いているだけです。帝王ですから。実際、別に「帝王様でなくてもよござんす」程度の演奏。「HELEN MERRILL」のブラウニーみたいなわけには行きません。ライナーノーツには「かのマイルスも参加している、それほどすごいアルバム・・・」などと書かれてありますが、ある意味確かにそれだけのトホホなアルバムなのです。ただ、サラ自体はいい歌声を披露してくれていますから、歌物としては名盤といえる出来ではあります。ジャンキー・マイルスのトホホなこのアルバム、マイルスファンは購入不要かもしれません。そんなことなど露知らず、これまで「おおーーマイルスがやってるじゃーん!」と感心して聴いておられたJAZZファンの皆さん、ごめんなさい。でも、帝王物語はここから始まるのです。しばしお待ちを・・・