2006.05.17

COLUMN

(葛原風)「骨は難しい・・・」

MILESTONES (1958)

今日は一日雨模様でした。そろそろ入梅なんでしょうか? そうです、以前お話しましたが嫌いではなくなったんです、雨の日。昔の私をご存知の方は、まさしく「驚天動地」でしょうねぇ。で、この言葉、最近流行り言葉ですので、年末には流行語大賞かもしれません。今日も2件、お客様を訪問させていただきました。どうか、よろしくお願いいたします。明日も2件、お客様を訪問する予定ですので、その準備やら調べ物やらで、雨の水曜日はあっという間に暮れてゆきました。

今日のお客様訪問は、2件ともシステムがらみのリニューアル案件でした。特に一件は、現状全く問題なさそうに見えるのですが・・・実は、耐震強度が不足しているマンションのような状況だったことが判明しました。

私たち哺乳類や建物、車や航空機に船なども、始めに骨格ありきです。それに肉やら建具やらさまざまな装飾品がついている。一方で、細菌やアメーバなどは骨格を持ちません。豆腐やこんにゃくも同じです。それでも生存あるいは問題なく存在し、あるいは必要な機能を満たしている。では、今日の案件の、はっきりしない骨格、あるいは強度不足の骨格は何が問題なのでしょうか?

骨格や骨組みがあるものが何のために、あるいは何に抗するためにそれが必要なのか? 実はそれは「引力」あるいはその力による「自重」つまりは「重力」の働く世界の中で自立もしくは移動・運動するために必要なのですね。では、システムやプロジェクトは重力に抗するために「骨格」が必要なのでしょうか? そんなことはないですよねぇ・・・(って、まるで物理の授業のようであります・・・)実は、それは何かに抗するのではなく、需給や嗜好、使用者・利用者、価値観・存在意義など、さまざまな力があらゆる方向から変化しながら作用する現代のビジネス環境と言う「場」において、自立して運動・稼動するために必要なのですね。(スタンド・アローンと言う意味ではありません。)そして哺乳類や建物と同じように、その骨組みにさまざまな機能が付与され、意匠がデザインされ、複雑系のビジネス環境の中で、与えられた目的を果たすことが出来るようになります。

システムで言えば「要求定義」や「要件定義」、フロントだけのサイトでも「コンセプト」なるものがその骨子に当たります。建築でもそうですが、日向に出ない影の存在であるこの「構造」、ややこしいだけでちっとも面白くないかもしれませんが、しっかりと構築させてください。そしてそのプロセスで築かれた私たちとお客様のコンセンサスは、骨子のもとのカルシウムとなり、また素晴らしいインターフェースのアウトラインとなってゆきます。「骨は難しい、でも骨は大事」なのです。

今夜はマイルス16夜。Colunbia/CBS第2弾の「MILESTONES」です。JAZZの名門「Prestige」から音楽界のメジャー「CBS」に移籍するに当たり、マイルスは自らのバンドを結成します。「へたくそテナー」と言われながら寡黙に努力を重ね、めまぐるしい進化を遂げたコルトレーンとの2管に、ガーランド、チェンバース、フィリー・ジョーの鉄壁のリズム隊。そのクインテットで世に出されたのが前作の「Round」に進行形4部作。あれから早2年。ひと時たりとも現状にとどまることなく、現状をよしとしない我が帝王マイルス様。「俺が、俺が」のマイルス様。ここでフロントにキャノンボール・アダレイを招聘します。これで3管セクステットの完成です。このフォーマット自体は、当時のハードバップバンドでは珍しくない構成でした。しかしこの第一期マイルス・バンド(ベータ・バージョン)は、明らかに他のハードバップ・バンド、つまり以前のバップ・イデオムの延長線上とは異なった音楽性を、この時点ですでに追求し始めます。

今夜のこのアルバムを聞くと、1曲目からそのことが明白になります。「白目」ではありません。白目はむくと怖いです。「DR. JEKYLL」です。ハイド氏は行方不明です、テンポ速いです。マイルス吹きまくります。手数多いです。フライ級です。続くトレーンとアダレイのテナー合戦も、目にもとまらぬ光速の差し手抜き手。二人にわざと掛け合いさせたのは、他ならぬ御大だったのでしょう、きっと。二人、答えます。トレーン、踏ん張ります。アダレイのほうは、がんばって音色をそろえます。合戦というより実践で稽古つけてるって感じです。そして、おお、まさしく「マイルス・トーン」ではないですか!

ジャケットもいかしてます。「クール・ビズ」ではありませんが、シャツはボタンダウンです。お洒落です。それもマイルス教信者の経典の一文です。「教徒よ、常にお洒落でアレー」ポクポク。

2曲目の「SID'S AHEAD」なんとピアノを弾いているのはマイルスその人です。昔ですからオーバーダビングなどない。いやようやくこのアルバムからステレオになったくらいのもんですからー。ピアノを弾いたりラッパ吹いたり、御大大忙しです。真相は不明ですが、ガーランド、怒って帰ったそうです。聞き分けのない子分を持つと、親分は苦労します。もちろんマイルス、ガーランド張りにはひけましぇーん。でもですね、いいのですこの曲。当然マイルスのソロではピアノレスです。なんといいますかキンチョー感がすごいのです。この曲はですねー、思うにこの後の傑作「カインド・オブ・ブルー」へとつながってゆくマイルスの変化を表す曲ではないのかしらん。そう、ガーランドの役目、ガーランドの時代はすでに終わったのです。サヨナラ・・・それにしてもめまぐるしい変化です。ついてゆくのが大変です。この音楽性の変化とメンバーの交代激は、この後もずっと続くことになります。

5曲目は、そんなお払い箱ガーランドに餞の一曲、ピアノトリオの「BILLY BOY」。曲調が他の曲と全く異なるのは、「そっちの世界でがんばれよ!」というマイルスからのメッセージなのか??? そして1曲戻って4曲目の「MILES」。きてます、きてます、これぞマイルス・トーン。さっきも言ったので、「正真正銘の」と冠しときましょう。マイルスのいちトランペッターとしての全盛期がこの58年であったことは、多くに人が認めるところなのです。じゃあ、マイルスはこれからどんどん下手になってゆくの? 技術的にはそうかもしれません。しかしこれからは「どんどん素晴らしく」なってゆくのです。60年代には60年代の、80年代には確かに80年代の「素晴らしき帝王マイルス」が待っています。どうぞご安心を!

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ここで視聴できますよ!

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