2007.02.22
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト ピアノソナタ第11番 イ長調 K.331 「トルコ行進曲つき」(1778年)
いよいよモーツァルトの登場です。いや、実は私、モーツァルトがあまり好きではありません。シンフォニー好きの私にとって彼の交響曲群は、それを理解するにはあまりもまだ私の精神面が若造すぎるのでしょう。彼はまごうことなき神童であり、天才です。彼の存在なくしては、今日のクラシック音楽はありえなかった。あの時代、間違いなく世界はモーツァルトを必要としていました。しかし、ヒトラーがワグナーをこよなく愛したように、少なくとも今の私はベートーベンやマーラー、「闘争から歓喜へ」が必要なのです。それでも、他の作曲群、ピアノ協奏曲やピアノソナタは、時折心を休める香りとなって、私の部屋を満たしています。ひととき、痛めた羽根を休めるように・・・。
「まるで天使が奏でるような清らかで澄み切った音」、それが私のモーツァルトに対するイメージです。そんなイメージを抱かせる彼の代表作が、このK.331です。幼少の頃よりヨーロッパ中を旅することが人生そのものだったような彼が、1777年から10回目の就職活動旅行に出発、マンハイムを経由してパリを訪れます。そのパリで、彼は同行していた最愛の母を亡くします。傷心のなかで彼は、この曲を書きます。母を亡くしたという心象で、どうやってこのような優雅で美しい曲を書くことができたのか。それが彼の天才たる所以だったのかもしれません。うれしい時には明るい曲を、悲しいときには暗い曲を書くのでは、ただのアマチュアにすぎないのですから。
どこかの胃腸薬のCMにも使われた優美な第一楽章アンダンテ。メヌエットの美しい第二楽章。そして、誰しも一度は耳にした事のある「トルコ行進曲」第三楽章。当時パリで流行していた異国趣味を取り入れた第三楽章は、トルコの軍楽隊の響きを真似て書かれたといわれていますが、全体にはフランス民謡風の優雅さが支配しています。ソナタと言いながら、ソナタ形式の全くないこの曲は、基調をイ長調としながらも、長調と短調が交互に折り重なる本当に美しい曲です。
モーツァルト弾きとして世界に誇れる内田光子の透明感に溢れた演奏は、優雅さの中に漂う儚さがこの曲にはぴったりではないでしょうか、W辺部長さま。もちろん、バックハウスやアラウもお勧めですよね。モーツァルトがウィーンに安住の地を見つけるまで、あと3年かかります。