2007.02.11

ART

一枚の絵画・・・「ゴシックの終焉」

「聖アントニウスの誘惑」 ヒエロニムス・ボッス (1505)

なんと1年ぶりではありますが、今日は絵画です。1年前の前回は、ルネサンスからマリエリスムまで進みましたが、今回はまたルネサンス以前の後期ゴシックに戻って、ボッスをご案内します。

ゴシック様式も16世紀になると新しい様式、ルネサンスの影響が見られるようになります。今日のボッス(1450年ごろ〜1516年)は、ゴシック時代の画家でありながら、フランドル絵画の一般的伝統からは大きく逸脱しており、自由奔放に描かれ、一度見れば決して忘れる事のないその象徴主義的あるいは怪奇的な表現は、全く独創的な世界を繰り広げます。今日ご紹介する「聖アントニウスの誘惑」も、彼の絵画の特徴である幻想的で悪魔たちでいっぱいの彼の代表作です。

ボッス.jpg

中央に描かれた聖アントニウスは、悪魔の誘惑にさいなまれています。その周囲にちりばめられた奇妙な生き物たち、アザミの頭を持つ男や半身が舟の魚や鳥たち。これらの異様な対象も、当時の人たちには身近なものだったのかもしれません。彼の作品のほとんどは宗教画ですが、そのほとんどがこの絵のように謎めいた作品となっており、それは当時の社会的政治的な大変動期を生きる人々の、不安やペシミズムが大きく反映された結果でしょう。

想像上の生き物たちをこのようにリアルにおどろおどろしく描くことで、逆に混迷の時代の中で、現実の中に一瞬の安らぎを見出そうとしたのかもしれません。現代もまた、当時のように混乱と混迷に満ちています。この悪魔的な絵に背を向けるのではなく、一瞬の平穏を見出そうと見入ってしまうのは、決して私だけではないと思うのですが・・・。

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