2007.03.14

CLASSICS

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466 (1784年)

その短い生涯にわたってヨーロッパ中を旅したモーツァルトが、ウィーンに定住を決めたのが1781年でした。パトロンに囲われていた当時の音楽家の習いとしては珍しく、予約演奏会などを中心に収入源を確保し独立した生計を営もうと決めた彼は、自らの演奏会用に特にピアノ協奏曲の作曲に力を入れるようになります。1784年からの2年間で、後にいずれ劣らぬ傑作とされる12曲ものピアノ・コンチェルトが作られることになるのですが、この20番はその中でも有名な交響曲40番と並ぶ名曲なのです。

モーツァルトは一般的には、古典の持つクラシック感とでもいいますか、マーラーのような大げさではない女性らしさと、メロディメーカーとしての艶やかな旋律が特徴なのですが、時折垣間見せる彼の悲しみや哀愁は、私をロマン派よりも純粋に感動させてしまうことがあります。この曲は、彼が初めて作った短調のピアノ協奏曲であることもあってか、ピアノの連打の中に刻み込まれるような物悲しさが、どうにもいたたまれず、しかも聞き入ってしまいます。

暗く悲劇的な弦楽器の演奏により緊張や不安に包まれながら始まる第一楽章。ピアニシモはその居場所を一歩一歩確かめるように始まります。やがて管や弦に導かれるように鮮やかに奏で始める旋律も、どこかしら悲しみと不安に満ちています。どこかで聞き覚えのあるソナタのように、そっと穏やかに始まる第二楽章。そして悲しさと激しさが交互に繰り返される終楽章は、彼の生き様そのままに気高きままエンディングを迎えます。

お勧めは、いつものモーツァルト弾き内田光子。スコアに忠実というより、モーツァルトの精神を忠実にトレースします。彼のもう一つの側面とも言える享楽性を一切排除した彼女の演奏は、禅の精神にもつながるような求心的なもので、彼女のアプローチは私のモーツァルト嫌いの一方の側面をしっかりと消して埋めてもくれているのです。

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