2007.03.07
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル オラトリオ「メサイア」(1742年)
絵画の歴史がそうであるように、クラシック音楽もその原初においては宗教、とくにキリスト教と切っても切り離せないルーツを持っています。歴史上の偉大な作曲家たちも、宗教のための楽曲を数多く世に生み出しましたが、宗教曲の中でも受難曲やオラトリオには、宗教観を離れても感動を与えてくれるものが少なからずあります。今日のヘンデルによるオラトリオ「メサイア」もそのひとつで、「水上の音楽」と並ぶ彼の代表作のひとつです。
生涯で32曲ものオラトリオを残した彼の最高傑作がこの「メサイア」です。全3部からなるこの曲は、16曲のアリアと19曲の合唱から構成されています。メイサアとはもちろん救世主イエスのこと。メシエなどとも呼ばれますよね。チャールス・ジェニンズによる歌詞は聖書から紐解かれ、予言とイエスの降誕から始まり、受難・復活、そして来るべき栄光の君臨へと進んでゆきます。1789年にはかのモーツァルトも編曲を行っています。
第2部の最後にはヨハネの黙示録からの言葉によるかの有名な「ハレルヤ」が合唱されます。1743年に行われたロンドン初演では、この「ハレルヤ・コーラス」を聴いた当時の国王ジョージ2世が感激して起立してしまったため、それ以降このコーラスの時には聴衆は起立して聴く習慣が出来たそうです。清澄な田園曲を含む第一部、ハレルヤ以外にもじーんと染み入る美しさのアリア「彼は侮られ」が演じられる第2部、合唱音楽の粋を聴く思いのするフィナーレの「アーメン・コーラス」の第3部。全130分の大曲です。
英語で歌われることの違和感はあれど、全編を通して聴くものの心を清く、そして強くしてゆくようなこの大曲を聴くと、ベートーベンがバッハよりもヘンデルを尊敬していた理由も理解できます。ガーディナー指揮イギリス・バロック管弦楽団、モンテヴェルディ合唱団の演奏は、ロマン派以降の壮大でロマン溢れる演奏ではなく、端正で透明な響きのヘンデル時代バロックの響きを聞かせてくれます。他には、ホグウッド指揮エンシェント室内管、パロット指揮タヴァーナーなど。たまには、魂のありかを探す旅に出かけてみませんか?