2007.03.17

ART

一枚の絵画・・・「ドイツ肖像画ルネサンス」

「自画像」 アルブレヒト・デューラー (1498年)

北方ルネサンスの最も偉大なドイツ人の芸術家といえばアルブレヒト・デューラーです。「私は形態と美の完璧さはすべての人間の総和のなかに含まれると考えている」と、自著「人体比例に関する四書」に著した彼は優れた教養人でもあり、科学理論と芸術の間の洗練した対話のできる芸術家でした。そんな彼の残した作品の中に見られるのは、大上段から振りかざしたこれ見よがしのものではなく、実は内面にもつ自尊心と深い憂鬱だったとも言われています。


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今日ご紹介する彼の1498年作の「自画像」。貴族的な面持ちの青年デューラーは、クールな巻き毛の傲慢で洒落た表情で描かれています。窓から見える芝居がかった風景と高価であろう当世風の衣装は、彼の自尊心を表すのに一役買っています。ただこの絵には、不幸な結婚などによる彼の人間的な憂鬱が込められており、他の作品も含め、彼の絵にはあたかも絵画が幸福の代用品であるかのような、やむにやまれぬ切迫感を感じます。ルターを尊敬し最初のプロテスタント画家となり、それまでのドイツ哲学とゴシック様式を否定した彼は、芸術家にありがちな自尊心が独善に落ちいることを引き止めてくれる「ひそやかな臆病さ」をもっています。それが私たちをこの絵に惹きつける、大きな引力となっているのです。

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