2007.04.12

CLASSICS

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト アダージョ ロ短調 K.540 (1788)

華麗で華燭に溢れた作品と共に、澄み切った空気を切り取ったような音を綴ったモーツァルト。今日ご紹介するアダージョも、10分足らずの短いピアノソナタですが、ある日の彼の部屋を満たすすがすがしくも悲しく儚い澄み切った時間を想起させてくれます。1785年「フィガロの結婚」、1787年「ドン・ジョヴァンニ」を作曲し、大成功を収めた彼でしたが、その頃長きに渡って彼を導いてきた父を失います。この曲の作曲の動機や初演などは不明となっていますが、恐らくはそんな彼の深い悲しみや悲痛な心中で、生み出されたのではないかと思われます。

優れたヴァイオリニストであり、ザルツブルグ大司教宮廷楽団の副楽長まで務めた父に連れられ、5歳の時から約10年間にわたってヨーロッパ中を演奏旅行したモーツァルト。自由奔放な子供のような彼の心の奥底には、自分をこの道に導いてくれた父への感謝と尊敬が常にあったのではないでしょうか。この曲は、そんな父親に対しての鎮魂ではなく、32歳の作曲家モーツァルトとしての贈り物、あるいはキリスト教でいう「告白」だったのではないでしょうか?人の命の儚さ脆さだけでなく、この曲には生きること、いき続けることの苦悩とともに、その狭間で得ることのできる一瞬の「生きることの喜び」をも聞き取ることができます。円熟の極みにあった稀代の作曲家の自画像です。傷心にはいたく響きます。

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