2007.09.06
一枚の絵画・・・「16世紀の北方風景画」
「暗い日」 ピーテル・フリューゲル (1565)
まだまだ残暑が続いていますが、チラチラッと秋の気配も見え始めました。秋といえば・・・ゲージュツです。でもって、4ヶ月ぶりの絵画の投稿をば。前回ご紹介したボッスに影響を受けた北方絵画の開祖フリューゲルです。
彼は、もともと小さなカメオのような風景表現だった北方の風景画に、少なからずイタリアの影響を持ち込みました。それは、ボッスのあの空想的な創意です。彼の最も有名な絵は1563年に書かれた「バベルの塔」です。しかし、彼をして絵画世界に名だたるものと比する作品は、今日ご紹介する「暗い日」を含む、5点の月暦画シリーズです。
どの画家よりも無口な彼の表現は、アントワープの市民の日常や広大な自然の風景を呈示するだけ。まず目に付く右下の三人のうち、一人は当時のカーニバルの食べ物であるワッフルをかじり、下の子供はこれもカーニバルの象徴である紙でできた冠をかぶりランタンを下げています。そのすぐ脇では、2月の行事といわれる柳の枝きりが行われており、描かれた暦が2月のある晩冬の風景であることを伝えます。
一方、上のほうに目を移すと、今にも落ちてきそうに雲は荒れ狂い、左手の山々は手前の働き遊ぶ人々がいる赤褐色の大地とは対照的な暗雲色に描かれ、自然の本来的な驚異と永続性を象徴しています。右の川の流れに目を移すと、そこにはなんと荒れ狂う川の流れに沈没する船が描かれています。再び、手前の村人に戻った時、柳の枝を切りながら自然を支配しようとする彼らの営み、あるいは無邪気なたくらみが、とうてい自然の持つ破壊的な力には及びもしないことを思い知らされることになるのです。
自然への畏敬と敬虔な暮らしへの促し。人が自然に生かされていることを、誰よりもこの時代、敏感に感じ取っていたのではないでしょうか?ヨーロッパ、特にドイツでは持続可能なエネルギーの供給に今熱心に取り組んでいます。自然を征服しようとする野望が儚くも脆い、あさはかな夢であることを、この時代から彼らは知っていたのかもしれません。私たち日本人のDNAも、確かそうだったはずなのですが・・・。