2008.02.17
ブラームス 交響曲第3番 ヘ長調 作品90 (1883)
生涯、独身だったブラームス50歳の時の楽曲。彼の残した4つの交響曲の3番目です。シューマン夫人のクラーラを、夫の死後から彼女の死の床まで献身的に見守ってきたブラームス。そんな彼にも、ロマンスはありました。
30歳頃にウィーンに定住の後、39歳の1872年にはウィーン楽友協会で指揮をとるようになると、マーラーなどと同じように彼もまた、夏には涼しい避暑地に移住し創作活動に専念します。この間に生まれたのが、「ハイドンの主題による変奏曲」「交響曲第1番、第2番」「ヴァイオリン協奏曲」「ヴァイオリンソナタ第1番」「大学祝典序曲」などなど。
この習慣は、彼の晩年まで続くことになるのですが、今日ご紹介する第3番は、彼がこの年に初めて訪れたヴィースバーデンという、ライン川とマイン川が合流するドイツの静かな町で作曲されました。この町には、ヘルミーネ・シュピースという新進女性歌手が住んでいました。
ブラームス50歳、シュピース26歳。24歳の年の差がありながら、彼女の豊かな芸術に対する感性と明るい人柄に触れ、ブラームスは彼女に恋をします。彼女の為に、作品96、97と言った歌曲を作った彼が、彼女に対する自身の心情を書き残したもの、彼自身の為に作ったのが、今日ご紹介するこの第3番なのです。
ヘ長調で活気に満ちて始まる第一楽章、基本動機が輝かしく奏でられますが、本来イ長調への展開のところが変イ長調へと動いていきます。明るく明快に始まった曲は、恋の不安のように惑いと憂いを含みながら進んでゆきます。
第一楽章との明らかな対比、彼女を生み育んだヴィースバーデンの美しい自然を慈しむような素朴な調べの第二楽章では、主に弦楽と木管によって柔らかく進んでゆきます。そして時折、彼自身の心を映すかのように、かすかな寂しさが秘められています。
ハ長調の第二楽章に対し、ハ短調となる第三楽章。前楽章よりもさらに楽器編成は縮小され、大きな音のする金管や打楽器は一切使われません。水彩の、あるいは墨絵のような、孤独の中の静かな心模様の、印象的な調べが続きます。ヴァイオリンの慰めるような旋律を経て、静かに、消え入るように楽章が終わります。
終楽章。第一楽章の基本動機が再現され、恋に身をやつす主人公は喜びに溢れ情熱的に高揚し、また激しさの中に孤独に打ちひしがれます。やがて木管が響き始めると、すでに思い出となったかのように第一楽章の主題が語られ、消え入るように曲が終わります。
素朴な村の人々からも暖かい祝福を受けていた二人は、やがて結婚すると言われていましたが、彼らが婚姻の契りを結ぶことはありませんでした。
二人の間に何があったのか?何が障害となったのか?24歳という歳の差なのか・・・。
彼が再び、ヴィースバーデンを訪れることはありませんでした。彼らの残した「夏の思い出」は、この第三交響曲となって、今私たちのココロに響きます。
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交響曲第2番:人生肯定の暖かい歌う演奏
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