2008.02.09

ART

一枚の絵画・・・「そしてゴシックから始まった」

「ユダの接吻」 ジョット・ディ・ボンドーネ (1305)

確認できる最古の絵画がアルタミラやラスコーの洞窟に描かれたのが1万数千年前のこと。その後、エジプト、ギリシャ、そして紀元後のヘレニズム、ローマ、ビザンティンを経て、いわゆる「暗黒の時代」の明けた12世紀のヨーロッパに、ジョットとともに「西洋絵画」が舞い降りてきます。いわゆるゴシックの時代です。

1267年(頃)フィレンツェ生まれのジョットは、ビザンティン美術の再構築を行ったチマブーエやドゥッチオの影響を受けながらも、ゴシックのもつ自然主義志向の文脈の中から、より現実世界の再現へと歩を進め、初めて写実的な空間表現を行ったことで、「西洋絵画の父」と呼ばれています。

それまでの絵画にはなかった対象の質感、そして存在感と色彩の輝き。歴史家マイケル・レビィの「創造的個性」が始めて世に生まれたのです。

今日の一枚の絵画は、そんな西洋絵画の画家の「いろはのい」であるジョットが、北イタリアのパドヴァのスクロヴェーニ(アレーナ)礼拝堂に描いた一枚のフレスコ画「ユダの接吻」です。私の大好きな一枚でもあります。

この絵画の主題は、クリスチャンでない方でも御存知の、イスカリオテのユダによるイエス・キリストへの裏切りの場面、接吻によって祭司や兵士にイエスを知らしめた瞬間です。

松明が燃え、武器が舞い、敵味方が入り乱れて騒然としている中、画面中央で二人の主人公の時間が凍り付いています。

ユダの乱れた心が表れた動揺にゆがんだ表情に対し、イエスは静かにそのユダを見つめています。真実と虚偽の悲しみに満ちた対峙。その瞬間を、二人の関係を持って表現したジョット。実はこの、登場人物間の関係性こそが、それまでのビザンティン様式には見られなかった表現であり、以降芸術が追い求めることになる「自然表現」なのです。

そして、この絵画に向かう私たちと、この二人の間にも、見えざる関係性が育まれます。およそキリスト教の知識のない者でも、この絵に込められた真実は、構築された関係性の橋を渡って、数百年後の私たちに、しっかりと伝わってきます。

目には見えないその伝播、私たちの視線に対する作者の答え。それこそが、「芸術」そのものではないでしょうか?

喧騒と飛び交う怒号、怒りの渦の中に、「真実の愛」が見えますか?

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