2008.03.20
「ココロにしみるもの」
先日、kiyoさんから、「クラシックって、本当はバックボーンがわかって聴く物なんでしょうね」というコメントをいただきました。それで、私がクラシックを聞くようになったいきさつをお話します。
そんなもん、聞きとうもないと思われるお忙しい方は、すかさず「戻る」ボタンをクリック！
御用とお急ぎでない方は、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい！切なくも淡い物語の、始まり、始まり〜っ！
私は中学3年の夏に、同じ学年のとある女子学生に恋をしました。他校でしたので、その後二人は会うこともなく半年を過ごし、高校へ。そこで彼女と同じクラスになりました。しかも、私がいた高校のクラスは、3年間同じクラスメートと過ごすクラスでした。もう時効ですよね、K.Y.（当時）さん。
ほどなく私たちは、お互いの名札を交換して付け合う仲になりました。特に好きだとか、付き合うとか言う会話もなく、ごく自然に・・・。担任に、「お前ら、なんで名札が入れ替わってるんや！」と言われたことを、今でも覚えています。（気が利かない担任ですよね！）
しかし、1年後にはいろいろあって、二人は名札を元に戻します。そして彼女は、私の親友と付き合い始め、私は彼女よりも幸せになろうと、それから幾度かの恋を過ごします。
誰かと付き合いながら、視界の片隅には彼女がいた。彼女の笑顔を、付き合う相手に求めていた。そんな恋が長く続くわけがありません。そして二人は高校を卒業。私は東京へ、彼女は山梨へ・・・。
大学にはいっても、成長しない私は同じことを繰り返していました。自らの幼さも手伝って。そしていつも、へこたれた私は彼女の面影へ、知人からもらった一枚の彼女の写真へ、亜麻色の長い髪をかきあげる彼女のしぐさに帰ってゆきました。
結局、ある事件をきっかけに彼女の存在と面と向かわなければならないと悟った頃、同じ下宿のクラシック通の友人に勧められたのが、ミュンシュ＆パリ管のベルリオーズ幻想交響曲でした。彼は当時からN響の定期公演に通うほどのクラシック通。今思えば、私のカラヤン嫌いは彼の影響かな？
それまでクラシックなんて聞く気もしなかった、田舎育ちのJAZZ未遂ロック少年が、初めてクラシックに面と向かったのです。
この曲については、以前このブログにも書きましたが、作曲家ベルリオーズがあるシェークスピア女優に恋をし、叶わぬ思いを詫して作られました。スコアの冒頭には、「恋に狂い、人生に飽きた芸術家が、阿片を飲んで自殺を図る。だが致死量には達せず、重苦しい眠りの中でつぎつぎと異常な夢を見る。そしてその幻想の中で、「固定観念」という恋人の旋律が、あらゆる場面に現れる」とあります。
当時の私は、野良犬にでも地球にでも感情移入できるおそまつ君。すぐにこの曲にのめりこみ、毎日毎日、学校から帰るとこの曲を聴いていました。もちろん彼女の写真を眺めながら・・・。
大学2年。賄い付きの下宿を出て、６畳一間のアパート暮らしを始めます。そしてついに私は、６年越しの切ない想いに決着をつけることにしました。知り合って以来、初めて自分の心を打ち明けた手紙を書き、アパートの合鍵を入れて彼女に送りました。
一週間ほど経ったある日の午後、彼女からの返事が届きました。
「あなたの想いには、応えることは出来ません。」
封筒には合鍵がそのまま入っていました。
その夜、今でも酒に弱い私は、サントリー・リザーブ１本とニッカ・ゴールドのダブルサイズを半分ほど、ロックで浴びるように飲み、２日間はトイレの前の板の間で飲まず食わずで過ごしました。幻想交響曲を聴きながら・・・。飲んだ酒と同じくらいの涙を流しながら・・・。
涙も枯れ、吐き気も治まり、私はようやく彼女から卒業できました。桜はもうすでに時期を過ぎていましたが・・・。
長々となりましたが、私がクラシックの世界に入ったのは、実はこんなしょうもないことがきっかけだったのです。ですから、高尚な感性も知識も必要ありません。必要なことは、何かにこだますることの出来るココロではないでしょうか？
もちろん音楽も絵画も、所詮芸術なんて、個人的な趣味的なものです。誰もが好きになるものではありません。でも、なにか別のことで入り口で立ち止まってしまっているとしたら、ちょっとドアを開けて見られてはいかがでしょうか？
もしかするとそこには、違う自分に導いてくれる、違う音色にココロが響く何かがあるかもしれませんよ。
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