2008.04.07
アントン・ブルックナー 交響曲第3番 ニ短調「ワグナー」(1872年)
ブルックナーと言えば4番「ロマンティック」やホ長調7番が有名で、これらは番号なしから始まり9番で終わる全11曲の彼の交響曲群の、中期と後期のそれぞれの1曲目となります。少々乱暴であることを承知の上で言ってしまえば、花開く中期と円熟の後期に対し、試行錯誤と彼らしさの発芽の時期である初期5曲の最後の作品が、この3番ニ短調交響曲です。
またこの曲は、作曲当時ワグナーに傾倒していたブルックナーが、「トリスタンとイゾルデ」の初演に感動し、その後直接ワグナーに会い、この曲を献呈したことから「ワグナー交響曲」と呼ばれています。ワグナー自身も、終生この曲のスコアを読むのを楽しみにしていたようです。
1872年、ブルックナー48歳の時に作曲されたこの曲が初演されたのは、5年後の1877年。ウィーンフィルの演奏で彼自身の指揮により行われました。が、指揮者としての未熟さや団員とのコミュニケーションの悪さなどからあまりよい演奏ではなかったようで、各楽章が終わるごとに聴衆の数が減ってゆき、終楽章が終わった頃には熱心な支持者がわずか20人ほどしか残っていなかったということです。しかしその二十数人の中に、実は17歳の若きマーラーが含まれていたのは有名なお話。
いずれにしても、4番や7番といった長調代表作を聞きなれた方には、ちょっと異質なこのニ短調3番ですが、ブルックナー独特のワグネリアンらしい素朴な叙情性や宗教的感情、ゲルマン独特の自然に対する正統な情緒などが、全編にわたり緻密に刻まれています。
当初、あまりにワグナーに傾倒したために、「トリスタン」や「ワルキューレ」からの引用を数多く含み、それがこの曲を冗長にさせていたこともあって、1888年に行われた改定によりそのあたりがかなり削除されたいわゆる第3稿が一般的となっています。もちろんこの曲が、かの第9交響曲のいい意味の発展的亜種であることは、間違いのない事実であり、そういう視点で接することで、やや掴み所のないこの曲の敷居が下がることになります。
ブルックナーと言えば、ヴァントかクナですが、朝比奈隆指揮大阪フィルもこの曲の持つ3つの要素、「自然」「宗教観」「抒情」がしっかりと設計構築され奏でられた名演です。
バブルの頃にもてはやされた、イメージとしての「豊かなブルックナー」ではない一人の「ドイツの野人」、ベートーベンの継承者でありワグナーの弟分でありマーラーの兄貴分である交響曲作曲家の初期作品として、正統なクラシックファンには是非お勧めします。にわかカンタービレの女性には、ちと厳しいかも・・・。