2008.04.13
一枚の絵画・・・「北方ルネサンスの胎動」
「キリスト降誕」 ロベルト・カルビン (1425)
前回ご紹介したマルティニから1世紀。彼の優雅な作風は、やがてヨーロッパ全土に広がり、国際ゴシック様式なるものが誕生します。そしてまた、その国際ゴシック様式はヨーロッパを二分することになり、北方のネーデルラントを中心に花開くのが北方ルネサンス。その先駆者が、今日ご紹介するロベルト・カルビンです。
ゴシック様式で宗教画は、優雅さや人間味を身につけはしたものの、そこに描かれた人物は神聖さの象徴を埋め込まれ、身近なものとはいえませんでした。マルティニの「受胎告知」と比べていただければ一目瞭然なのですが、この「キリスト降誕」は、そのモチーフのせいだけではなく、明らかに私たちの日常生活という背景の上に、身近に感じる存在として登場人物たちが描かれています。
弱弱しく土間に置かれた生まれたばかりのイエス、無表情な産婆に粗野な羊飼いたち。牛小屋は荒れ果て、いまにも朽ち果ててしまいそうです。ゴシックの持っていた過度の装飾を捨て、飾り気のない日常の気取りなさの中に、穏やかな神聖さが表現されています。
このように日常生活やありふれた人間の営みを描きながら、登場人物たちを画面いっぱいに絶妙に配置することにより、この絵のモチーフが備えるべき神聖さや信仰心が、心地よく描かれています。
カルビンの画風は、この後ファン・デル・ウェイデンやヤン・ファン・エイク、ハンス・メムリンクに引き継がれ、やがてダーフィットやボッス、デューラーなどの後期ゴシックへ、そして北方ルネサンスへと大きく花開くことになります。