2008.06.16

CLASSICS

ベートーベン 弦楽四重奏曲 第12番 変ホ長調 作品127(1825年)

ベートーベンといえば「第五運命」に「第九」。その最後の交響曲が生まれたのが1824年、彼がこの世を去るのが1827年。そしてその人生最後の3年間に世に送り出された彼の精神が、数曲の弦楽四重奏曲として私たちに残されました。

彼はその生涯において、17曲の弦楽四重奏曲を作曲しましたが、この12番以降が、「第九」の後のいわゆる「後期作品」の1曲目であり、彼よりも25歳も年下のロシアの貴族ガリツィン公爵の依頼で作られた3曲のうちの1曲です。

しかし実際には、この曲のスケッチは公爵の依頼前に着手されていたようで、しかも「中期作品群」以来14年ぶりの弦楽四重奏曲でした。

1820年前後の2度目のスランプの後、バッハの対位法の研究の成果としてかの第九やピアノソナタ名曲群が生まれるわけですが、この12番も対位法による構成美とともに、形式に束縛されない自由さと甘美さにも溢れています。

それは、作品としての芸術の自己完結を目指した結果であり、また彼の内面を旋律にこめた結果なのかもしれません。特に、彼お得意の変奏の織り込まれた第二楽章は、気高くまた生々しくも脆い彼の精神のありようが彼らしく表現されています。

この頃すでに難聴は日常生活に支障をきたすほどに進行し、慢性的な内臓疾患による体調の悪化、甥の親権を巡る争いにより疲弊した神経の中で作られた6曲の弦楽四重奏曲は、駆け抜けた彼の音楽家人生のひとつの結晶でもあるのです。

変ホ長調とハ短調に名作が多いといわれるベートーベン。人生最後の3年間は、この変ホ長調から始まります。

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番&第14番

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