2008.06.29

CLASSICS

「再会」

織姫と彦星ではありませんが、およそ1年ぶりの彼女との再会でした。

真紅のドレスに身を包んだ彼女は、身につけた自信で溢れんばかりだった1年前と比べて、むしろそのぎすぎすしたものを奥に秘めやり、瑞々しさというよりも潤いをたたえた少し大人になった落ち着いた身のこなしで、再会の歓びをその瞳に浮かべていました。

彼女の名は「神尾真由子」。1年前の2007年6月29日、第13回チャイコフスキー国際コンクールで優勝。そして8月には50周年記念巡業で、N響に同行して来高。今回は丸亀市民会館で、ロハン・デ・シルヴァのピアノを従えてのソロコンサートでした。

シューベルトやチャイコフスキー、サンサーンスなどなど。一般にはあまり知られていない、エルネスト・ショーソンの代表作である詩曲というのを初めて聞きましたが、ロマン派の彼女しか見たことのなかった私にはとても新鮮でした。

高度な技術に加え、驚くほどの艶やかさをわずか1年で身につけた彼女のストラドの倍音の響き、しっかりとサポートするシルヴァの堅調なピアノ。やはり一流です。そんじょそこらでは聞けません。

音響的には、会場は問題ありでした。全体に音がデッドで、響きの艶やかさ輝きが特にハイエンドで消されている。反響と消音のコントロールも不十分で定位感が悪く、目をつむると彼女がストラドを上下に動かすごとに定位がずれる。できれば最新の設計のホールで聞きたかった。

いや、むしろこういうちょっと古い場所で聞くほうがいいのかもしれません。目をつむるのではなく、今そこにいる彼女の姿をしっかりと目で捕らえ、彼女の「心技体」の表現を五感で受け止める。時の流れを経たあの場所で、今の瞬間に消え行く音を全身に浴び、未来に生きるために己の記憶に刻む。

彼女も時間も音も、沢山の人々のさまざまな思いをよそに、6月の湿った夜の空気の中に放たれ、霧に中に消えてゆきました。

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1詩曲、シマノフスキの完成度について

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