2008.07.14

ART

一枚の絵画・・・「肖像画に魂が宿る」

「ある夫人の肖像」ファン・デル・ウェイデン(1460)

前回ご紹介したロベルト・カルビンを師とする北方絵画の巨匠が、今日ご紹介するファン・デル・ウェイデンです。20代後半という、遅い時期に画家を目指すことになった彼は、カルビンのもとでめきめきと頭角を現し、ヤン・ファン・エイクと共にブルゴーニュ公国フィリップ善良公の庇護を受けます。そして彼の作品は、ヨーロッパ中に広まってゆきます。

ウェイデンの特徴は、これまでの絵画にはなかった新たな感情表現、今でこそあたり前になった登場人物の感情を、崇高で知的な表現の中に表したことです。今日ご紹介する「ある夫人の肖像」は、肖像画の走りとも言える物ですが、無彩色の背景に描かれた女性は一見、凛としてたたずんでいるように見えます。

外見以外は何物も見せまいとする固く閉ざされた口元と伏せられた目は、痛々しいほどに慎み深い表情をたたえています。

飾り気のない衣装とその視線が彼女の謙虚さを暗示するものの、しかしウェイデンはそんな彼女のささやかな抵抗を打ちくだき、生身の彼女、生きているその存在の香りや肌の温たかさまで、私たちにさらけ出しています。ただそれは、露骨で安易な吐露ではなく、あくまでも彼女の崇高な謙虚さにことさらに従順に。

ファン・エイクの崇高さ、ウェイデンの溢れ出る情感は、ヒューホー・ファン・デル・フースやハンス・メムリンク、ディーリック・バウツらに引き継がれ、ダーフィットボッスらにより後期ゴシックの頂点を極める事になります。

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