2008.08.10
フランツ・シューベルト アヴェ・マリア(エレンの歌 第3番)D839 (1825)
前回、宗教曲でありながら宗教曲らしくないフォーレのレクイエムをご紹介しましたが、今日は世俗曲が宗教曲になってしまった名曲、シューベルトの「アベ・マリア」です。
宗教曲「アベ・マリア」自体が、そもそもミサ曲ではなく、私的な祈祷のための楽曲なのですが、古今東西、実にたくさんの「アベ・マリア」が存在します。グレゴリア聖歌やジョスカン・デ・プレ、グノーやロッシーニなどなど。熱心なカトリック信者であったブルックナーなどは、複数のアベ・マリアを残しています。
日本では、3年前に白血病でこの世を去った本田美奈子さんが歌っていた「アベ・マリア」をお聞きになった方も多いのでは?あれも有名な「カッチーニのアベ・マリア」ですが、実際ジュリオ・カッチーニが作曲したかどうかは定かではないようです。もちろん、天文学者で土星探査機に命名されたカッシーニとは関係ございません。
さて、シューベルトのアベ・マリアです。この曲には「エレンの歌 第3番」という別名が付いています。これはスコットランドの詩人で作家のウォルター・スコットの叙事詩「湖上の美人」のドイツ語訳にシューベルトが曲を付け、歌曲集「湖上の美人」の第3曲となったものなのです。
主人公の「湖上の美人」であるエレン・ダグラスはスコットランドの騎士の娘で、湖はロホ・カトリーン湖のことです。
王から逆臣の罪をきせられた父ダグラスとともに父娘は、ハイランドの族長ロデリックにかくまわれ、「ゴブリンの洞窟」に身を隠しています。その洞窟の中でエレンが、父の身を案じて聖母マリアに助けを求めて歌うのが今日ご紹介する「アベ・マリア」なのです。
そして彼女の清らかな心の調べは山々を超え、ロデリックの耳元にも届き、氏族を戦いへと鼓舞します。
有名な曲ですので、クラシックやポピュラーというジャンルを問わず、さまざまな男女が歌っていますが、今日は原曲の清らかな娘の父の命を案じるというニュアンスが最も近いと思われるバーバラ・ボニーをご紹介します。
バーバラ・ボニーはアメリカ出身のリリック・ソプラノ。オペラ歌手ですが、このアルバムではソリストとして、技巧や華燭のない心の声を聞かせてくれます。
眠れない夜に、癒されない痛みに・・・。