2008.08.15
エドヴァルド・グリーグ ピアノ協奏曲 イ短調 作品16 (1868年)
グリーグといえば「ペール・ギュント」ですよね。時に第一組曲「朝」は、最近あちこちで耳にします。生涯、生まれたノルウェーを愛し続けたグリーグは、当時統治していたスウェーデンからの独立を見届けて、64歳でこの世を去ります。
ノルウェーの紙幣にも描かれた国民的音楽家である彼は、実は「北欧のショパン」とも呼ばれていて、多数のピアノ小曲群こそが、彼らしい作品なのです。そんな彼が、生涯に1曲だけ残したピアノ・コンチェルトが、今日ご紹介するイ短調協奏曲です。
グリーグは1866年、23歳の若さでクリスチャニア(現オスロ)のフィルハーモニー協会の指揮者に就任し、翌年、2歳年下の従妹のソプラノ歌手ニーナ・ハーゲルップと結婚します。1968年、生まれたばかりの長女を伴って3人でデンマークを訪れ、コペンハーゲン郊外で幸福な毎日を送りつつ作曲されたのが、このイ短調協奏曲でした。
シューマンのピアノコンチェルトに非常によく似た打楽器から始まるソナタ形式の第一楽章。突然襲ってきた「悲劇」を表現する際にドラマなどでもよく使われますが、これはフィヨルドに注ぐ滝がイメージされたものです。素朴な、あるいは北欧的な主題は、やがて静かに歌うような主題に引き継がれてゆきます。
後に作曲される「ペール・ギュント」を彷彿させる、柔らかい弦楽器の和音で始まる第二楽章アダージョは、第2部になってようやくピアノが現れます。印象的なメロディで構成され、弦で起こされたイメージを引き継ぎつつ、名残惜しむように消え入るようにこの楽章を終えます。まさに「北欧のショパン」です。
切れ間なく始まる第三楽章は、ノルウェー舞曲のような第一主題と、北欧の美しい自然に抱かれるような、現れては消えるグリーグらしいピアノパッセージが、やがて壮大な合奏へと歌い上げられます。
終生、手のひらに乗るほどの蛙の置物や子豚のぬいぐるみを大切にし、寝るときも一緒、演奏会の際にはあがらないようにと、ポケットの中でそれをそっと握り締めていたというグリーグ。愛らしく、華奢な北欧の魂が作った、素朴だが強い光を持つ宝石のような作品です。