2008.08.31
COPYING BEETHOVEN 邦題:敬愛なるベートーヴェン
交響曲の父と言われるベートーヴェンの最晩年を、女性コピイスト(写譜師)とのやり取りから描いたフィクション。
史実に基づけば1824年、54歳になったベートーヴェン(エド・ハリス)は、新しい交響曲第9番、いわゆる「第九」の初演を4日後に控え、急ぎ写譜を仕上げる必要がありました。依頼されたのは音楽院で主席の成績を収めていた、若き作曲家志望の女性アンナ・ホルツ(ダイアン・クルーガー)でした。
最初は彼の激しい気性と、人を寄せ付けない性格に戸惑いながらも、自らの作曲家としての資質を磨くためと、依頼された仕事をてきぱきとこなしてゆきます。そしていよいよ、第九の初演の日。ところが、20代後半から患っていたベートーベンの難聴は悪化し、ほとんど耳が聞こえない状態になっていました。
初演の指揮をしなければならない彼は、アンナにタイミングとテンポのリードをしてもらいながら、大観衆の前でタクトを降り下ろします。
コピイスト(写譜師)と言う仕事は、作曲家や編集者が書いた主に直筆のスコア、もしくは手を加えた楽譜を、正しく清書するのが仕事で、マーラーなどはやはり作曲家志望だった夫人のアルマがやっていました。
原題からすると、写譜師からみた孤高の天才ベートーヴェンと言う風にも思うのですが、物語のプロットはそうではない。かといって、彼らの恋愛や師弟愛を歌い上げたものでもない。
途中の第九の初演のシーンでは、さすがにちょっと感動してしまいますが、その後の二人のやり取りには、不要と思われる拭き拭きシーンとかがあって、どうもすっきりしないといいますかピリッとしない。取り扱いの難しい弦楽四重奏曲「大フーガ」を持ち出しては見たものの、効果的なアイテムにはなっていない。
なんだか監督、周辺事情に色気を出しすぎて、いまひとつ彼らの人間像に踏み込んでいけてないような気がするのです。この辺は、「歓びを歌にのせて」と比べると、一目瞭然。
監督のアニエスカ・ホランド自身も、もちろんベートーヴェンを敬愛してやまないそうですが、どうもそういうミョーな敬意が、物語のリアリティを薄めてしまって、ノンフィクションに思われたらどうしよう的な恐れを持ったのではと思ってしまいます。
アンナをもっと早い時期に登場させ、彼女のより細かい心理描写や成長を通して第九誕生の秘密とか、最晩年の人間ベートーヴェンに迫り、第九で締めくくったら、もっと骨太ですっきりとしたわかりやすい映画になったのではと思うのですが・・・。
やはり女性監督と私との相性の問題でしょうか、この終わりなきねちっこさみたいなのは・・・。まあ、音楽をモチーフにした軽いヒューマンドラマとしてご覧ください。
出演:エド・ハリス,ダイアン・クルーガー,マシュー・グード,ジョー・アンダーソン,ビル・スチュワート
監督:アニエスカ・ホランド 2006年
BOSS的には・・・★★★☆☆
おすすめ平均:
その芸術人生を象徴する「第9」と「大フーガ」の真実
切れ味悪しの凡作
ベートーヴェンを聴き続けた者でなければ選び出せない旋律ばかり
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ベートーヴェンの曲を楽しむにはうってつけ。
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