2008.10.25

Movies

Full Metal Jacket 邦題:フルメタル・ジャケット

最近の若い方には、ベトナム戦争とアフリカかどこかの内戦との区別もつかないでしょうねぇ〜。私は当時、この戦争の記事をスクラップブックに綴じたりしていて、随分と両親を心配させたものでした。この映画は、「地獄の黙示録」と同様、ベトナム戦争を題材にした、スタンリー・キューブリック監督作品。彼らしい切り口で、海兵隊員として青春を生きる若者を描いた、基本的には反戦映画です。

作品は大きく2部構成となっており、前半はサウス・カロライナの海兵隊新兵訓練基地に送り込まれた若者たちが、3ヶ月の「クソ」だの「うじ虫」だのといった罵倒と厳しい訓練に耐え、一人前の海兵隊員となってゆくさまが描かれています。

後半は、テト攻勢(1968年)ごろの解放民族戦線による民間人虐殺、いわゆるフエ事件の起こったフエ市の市街戦を中心に、戦争と殺戮の境界のあいまいさ、兵士と人間の境界のあいまいさ、その境界を彷徨うことで、正気が狂気へと追い詰められるさまを描いています。

まず前半の訓練シーン、そうですあのブート・キャンプです。ご存知の方もある、あの下品な歌を歌いながら隊列を組んでのランニングもあります。が、何よりの見所聞き所は、鬼訓練教官ハートマン(リー・アーメイ)の発する罵倒の数々。とにかくとんでもなくて、世の中には「ハートマン語録」なんてものまであるほど。これはいずれまた、ご紹介します。

後半の展開は、報道隊員として国境近くのダナンに駐留していたジョーカー(マシュー・モディン)が、テト攻勢直後に前線のフエ市に派遣され、訓練学校時代のカウボーイ(アーリス・ハワード)と再会。しかし、戦局は徐々に悪化してゆきます。

とにかく、映画の中に出てくる会話といいますか、罵倒がすごい。映画配給に当たって、皆さんお馴染みの「戸田奈津子」が翻訳担当予定でしたが、再英訳を読んだキューブリックは表現が軟らかすぎるとして、当時ハリウッド在住だった原田眞人が担当します。これにより彼は、スラングが飛び交うベトナム戦争映画「グッドモーニング・ベトナム」の翻訳も務めることになります。

「貴様らが遊べるマ○コはこれだけだ!」と訓練中に渡された7.62mm NATO弾を使用する当時の正規銃スプリングフィールドM14は、後半の戦闘シーンでは、テト攻勢ごろに導入されたM193(5.56mm×45)弾を使用する初期型コルトAR15(US M16A1)に変わっていました。が、ジョーカーのM16がジャムって撃てなかったのは事実に基づく!?(笑)一方のベトコンのスナイパーは、「人類史上最も人を殺した兵器」カラシニコフAK-47を軽快に撃ってました。

フルメタル・ジャケットというのは、「鉄で出来たジャケット」つまり防弾チョッキ!ではありません。貫通性をよくするため、鉛の弾芯を金属で完全に被った銃弾のことを指します。

殺傷力を高めるためには、命中した弾丸はその瞬間に破裂するとかすればいいわけですが、実は1899年の万国平和会議において採択されたハーグ陸戦条約というのがあって、第23条は「不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること」を禁止していました。それで、当たっても貫通よくして、怪我をしても死亡しなくするために考案されたのがこのフルメタル・ジャケット(完全被甲弾)なのです。

しかし、殺すか殺されるかという戦争において、殺すけれど死なせはしないなんて論理は完全な自己矛盾であり、実はこれがこの映画のテーマであると思うのですが・・・。

ジョーカーらをフエに運ぶヘリの狙撃手が、逃げ惑う農民たちに向かってM60軽機関銃をぶっ放しながらたれる迷言、「逃げるやつは皆ベトコンだ! 逃げないやつはよく訓練されたベトコンだ!」、ジョーカーの「よく女子供が殺せるな」という問いかけに、「簡単さ、動きがのろいからな!」は、この戦争を表すひとつの言葉でもあり、またキューブリックの彼らしさでもあると思います。

エンディング、「ミッキーマウスマーチ」に続く、ストーンズの「Paint It Black」、イカシテマス!!!

出演:マシュー・モディン,アダム・ボールドウィン,ヴィンセント・ドノフリオ,R・リー・アーメイ,ドリアン・ヘアウッド

監督:スタンリー・キューブリック 1987年

BOSS的には・・・★★★★★

フルメタル・ジャケット

おすすめ平均:4.5
4「逃げる奴はベトコンだッ!!」
2残念でした
2初見ですが
4軍隊の本質とは?迫真のキューブリックの世界
5戦場

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