2008.10.22

Movies

Monster's Ball 邦題:チョコレート

人種差別や男尊女卑を乗り越えた、刑務所の白人看守と、夫が死刑を執行された黒人女性との男女関係を描いたヒューマンドラマ。「男女関係のヒューマンドラマ」というところが、この作品の難しさを表しています。

アメリカ南部ジョージア州の州立刑務所。死刑執行が決まった囚人の夫ローレンス(ショーン・コムズ)を息子とともに訪問した妻レティシア(ハル・ベリー)。そしてこの刑務所に息子ソニー(ヒース・レジャー)とともに勤務するハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)。彼は父の時代から3代続いた看守一家であり、母は自殺、妻は離婚して家を出て、男ばかりが暮らす生活をしています。

今は患ってはいるが厳しく厳格な祖父の父権という枠の中で、ハンク自身も息子に厳しく接しながら、しかし死刑執行を仕事としてこなさなければならないことを心の底に病んでいて、朝から嘔吐しています。

そしてローレンスの死刑執行の日、デッドマン・ウォーキングの彼を支えて歩いていたソニーは、いたたまれずにその場に倒れこみ嘔吐します。そんな息子をだらしないと叱責するハンク。自己矛盾が彼に狂ったような感情をもたらします。

翌朝、銃を手にしたソニーは、「お父さんは僕を愛してはいなかった。でも僕はお父さんを愛していた。」と叫んで、自ら命を絶ちます。ショックを隠せないハンクは、看守の仕事をやめます。

一方、夫を失いながらも、懸命に生きようとするレティシア。借家は立ち退きを迫られ、車もなくなり、仕事帰りに息子タイレル(コロンジ・カルフーン)と歩いて帰宅中、交通事故にあいます。たまたまそこを通りかかったハンクは、怪我をしたタイレルを車に乗せ、病院へと急ぐのでした。

1960年代ならいざ知らず、2001年の映画です。アメリカの人種差別の根深さを、あらためて感じます。いや、我々日本人だって、白人から見れば東洋の黄色人種の一種でしかないわけですから。

で、正直よくわかりませんでした。明らかに人種差別を悪と知っていたソニーは死に、どっちつかずのハンクはレティシアと恋仲になり、車をプレゼントするわ、自分の店であるガソリンスタンドに彼女の名前はつけるわ、まるでティーン・エイジャーみたいなはしゃぎぶりなのですが、彼の心は果たして本当に人種差別や男尊女卑を乗り越え、真実の愛と相手に対する尊敬に満ち溢れていたのか?

頑固な人種差別主義の男尊女卑思想の父の処遇も、根本的な解決をしたわけではなく、ただ臭いものに蓋をしただけ。結局、映画の中では彼自身の言葉として、ローレンスの死刑執行の顛末は、彼女には語られません。

始終、チョコレート・アイスクリームをほおばるハンク。それはまるで、ただの心地よさ、好みのことに熱中するだけの子供のようにしか見えない。甘い物好きの太っちょタイレルは、同じ息子というソニーではなく、私にはハンクと重なって見えます。

ラストシーンで、「僕たちはうまくいくような気がする」とつぶやく彼に、微妙に微笑む彼女。ハンクの「うまくいく」というのは、今の自由経済主義という名の放任主義と、決して根の絶えない人種差別を表面だけきれいにして、「うまくいっている」風に世界にアピールしているアメリカそのもののような気がします。

だから、ハンクが真っ白なペンキで壁を塗り替えたことも、「塗り替え」ではなく「本心を隠した」ようにしか思えませんでした。

ハル・ベリーとのセックス・シーンが話題になりましたが、たしかに激しい描写でした。一時はR指定にもなったとか?

味もわからないまま飲み込もうとしたら、喉の奥に引っかかったような、なんとも妙な気持ちの残る映画でした。そもそも、能天気な我々日本人にははなから理解できないシチュエーションなのかも?

ちなみに、第74回アカデミー賞・主演女優賞(有色人種初)、第52回ベルリン国際映画祭・銀熊賞、ゴールデン・サテライト賞・最優秀脚本賞、全米映画俳優協会賞・最優秀主演女優賞、フロリダ映画批評家協会賞・最優秀主演男優賞など受賞。

原題の「Monster's Ball」(怪物の舞踏会)は、死刑執行前に看守達が行う宴会を指すそうです。

出演:ビリー・ボブ・ソーントン,ハル・ベリー,ビリー・ボブ・ソーントン,ヒース・レジャー,ピーター・ボイル,ショーン・コムズ

監督:マーク・フォスター 2001年

BOSS的には・・・★★☆☆☆

チョコレート

おすすめ平均:4
3わからない
3社会派ドラマかと思いきや・・・
5アメリカ社会の寂しい寂しい大人たち。
3チョコレートって 甘いもの?
5珍しく邦題が原題よりもいいと思えた映画

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