2008.10.06

Books

罪と罰 ドストエフスキー著

この「軽薄短小」時代の真っ只中、いや、ますます加速度的に進んでいる時代に、1000ページのそれも150年も前のロシアの小説を読んでみました。えっ?「軽薄短小」なんて今や当たり前、もう死語?トホホです。

毎日のように報道される凶悪な事件、暴かれる悪行、アメリカ発の経済的世界同時多発テロとも言える金融危機、地球上の生きとしいけるものが犯され飲み込まれる地球温暖化。

そんなことは自分の生活には無縁だと、暢気に暮らす私たち一人一人、いやこの際いらぬおせっかいはやめて、私個人のありふれた日々の暮らし中に、はたして「罪と罰」はないのか?主人公ラスコーリニコフは、どんな「罰と罪」を背負い、その向こうに何を見たのか?

そんな不安とも恐れとも知れない強迫観念が、棚に並んだこの長編小説を手にとらせました。

読んだ方はご存知の通り、実はこの小説、いろいろな読み方が出来ます。

1.ロシア革命前の母性モスクワに対する、西欧的・キリスト教的父なる都市ペテルブルグを描いた歴史風俗小説。

2.殺人者と予審判事との息詰まる対決を描いた推理小説。「刑事コロンボ」の原点。

3.ソビエト社会主義以前の、ロシアにおけるさまざまな思想の入り混じった思想小説。特に支配者的思想、あるいは選民思想の行方。

4.ナポレオンに傾倒した主人公が、ロシア正教ではない「ラザロの復活」をさせたイエスに救われる宗教小説。

5.「自己犠牲」こそが「愛」の原点であり、人間の生きる目的であると言うイデオロギーとしての恋愛小説。

もう何十年も前に読んだときには、ヘミングウェイやスタインベック、モーパッサンなどと同じように、読んでおくべき古典の1冊でしかなかったのですが、この歳になり読み返してみると、いろいろなことがわかったような気がします。今更わかっても、「時すでに遅し」なんてこともありますが・・・。

そして私の心に残ったことは、5番目の「愛」。これは伏線こそあったものの、実は最後の数ページで一気に語られます。

今夜の報道番組で、ブータンのGNH、「国民総幸福」について特集していました。ブータンでは国民の9割が今を幸せと感じているそうです。

一方で、かつて「列強の仲間入り」「先進国」を目指した私たちは、「勝ち組」「セレブ」「六本木ヒルズ」とか言うわけの解からない言葉に煽られながら、本当は未だに心のどこかで純粋な「愛」を求め、「愛」の為に人を殺めている。私たちがナポレオンではないと、ラスコーリニコフではないと、自信を持って言えるでしょうか?

まず優先される言葉、尊敬される言葉は、「ビジネス」。「愛」なんて、子供っぽくて、気恥ずかしくて、どっかに置いてきてしまった私たち。

「あなたは今、幸福ですか?」

罪と罰 (上巻) (新潮文庫)
ドストエフスキー, 工藤 精一郎

おすすめ平均:4.5
4滑稽な男
2訳が最低{作品は4−5星}
5天才すぎる
5狂気の論理と愛の救済
5最高傑作!

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罪と罰 (下巻) (新潮文庫)
ドストエフスキー, 工藤 精一郎

おすすめ平均:4.5
4滑稽な男
2訳が最低{作品は4−5星}
5天才すぎる
5狂気の論理と愛の救済
5最高傑作!

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