2008.12.19
once 邦題:ONCE ダブリンの街角で
アイルランドの首都ダブリンに住むストリート・ミュージシャンの、歌と恋の物語。主演の二人にプロのミュージシャンを起用した超低予算のこの映画、全編を通して主人公の歌う切ない恋の歌が流れる、フォークソングのストリート風ミュージカルかも。アイルランド映画。
街角で、ボロボロのギターをかき鳴らし、自作の歌を歌う若者がいました。母が死に、掃除機の修理業を営む父の手伝いのため実家に戻ってきた彼は、それでも歌うことをやめられず、仕事の合間をぬっては昼夜となくストリートに立っていました。
ある夜、一人の若い女性がやってきて10セントのチップを出し、あれこれとしつこく質問した挙句、自宅の壊れた掃除機の修理を依頼して帰ってゆきます。翌日、本当に掃除機を引っ張って現れた彼女。彼女はチェコからの移民でした。
貧しくてピアノが買えない彼女が、時々弾かせてもらってるという楽器屋さんを訪れた二人は、そこで一緒に演奏し、意気投合します。
ロケ地はほとんどがダブリンの町中。ぐらぐら揺れる手持ちカメラで撮った普段着の映像と、二人の自然な会話は、何かしらスーッと入ってくる日常感に溢れています。登場人物みなが、それぞれの身の丈を演じています。
二人には、それぞれの恋の事情があり、それゆえ二人の距離も微妙なバランスを保ったまま物語が進みます。それは、「映画」らしくない展開でもあるし、逆に私たちの身の回りではよくあることでもあります。
父親のバイク「トライアンフ」に乗ってのドライブや、ダブリンの街角で人ごみにまぎれて歩く二人。イギリスもの(アイルランドもの)らしい何気ないシーンに、ほんわか心が温まります。
ストリートからスタジオ、そしてロンドンへと旅立つ彼のサクセス・ストーリーでは決してありません。人生に一度だけ訪れる「一期一会」と、1回きりのチャンス。それが誰の人生にも訪れることをほのめかしたこの映画は、かつてバンドをやっていたおじさんたちへの鎮魂歌ではなく、「思いをのせる」歌の素晴らしさと、優しい人たちの生きることへのひたむきさへの讃歌です。
ただの「ボーイ・ミーツ・ガール」ではないこの作品、先日の「奇跡のシンフォニー」とは対極にある、さりげないこういう映画、BOSSは大好きです。
出演:グレン・ハンサード,マルケタ・イルグロヴァ,ヒュー・ウォルシュ,ゲリー・ヘンドリック,アラスター・フォーリー
監督・脚本:ジョン・カーニー 2006年
BOSS的には・・・★★★★☆
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