2009.01.23
LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON/THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY 邦題:潜水服は蝶の夢を見る
有名なファッション雑誌「ELLE」の編集長として人生を謳歌していた男が脳梗塞に倒れ、左目以外の自由を奪われた実話を映画化した作品。原作は、主人公のジャン=ドミニック・ボビーが、なんと20万回のまばたきで綴った自伝です。
3週間の昏睡状態から目覚めた主人公ジャン=ドミニク・ボビー(マチュー・アマルリック)は、雑誌「ELLE」の編集長。しかし、左目以外自由がきかない。医師や看護士の問いかけに答えているつもりなのに、相手には聞こえていない。脳梗塞で倒れた彼には、意識と記憶、そして左目と想像力しか残されていませんでした。
そんな彼に言語療法士のアンリエット(マリ=ジョゼ・クローズ)は、まばたきで言葉を伝える方法を教えます。もともと「モンテ・クリスト伯」の現代版小説を書こうと思っていた彼は、不自由ながらも本を書くことを決意します。
別れた妻と3人の子供、離婚の原因となった愛人、妻に先立たれ不自由な体で暮らす彼とよく似た父親、飛行機の席を譲ったばかりにテロリストに捉えられていた友人・・・。それまでの人生の縮図のように、彼の周りの人々が、波のように寄せては引いて。
これはドラマではありません。実は主人公の生き様は、どこにでもあるような普通の人間の暮らし。いや、不倫と離婚を奨励しているわけではないですが・・・。
つまり、誰もが普通だと、あたり前だと、何ひとつ疑問にも思わない日々の暮らしが、実は違う目で見ればとても滑稽であり、また悲しく寂しいものであることを、物言えぬボビーが語ってくれます。
医者や看護士たちのボビーに話しかけるいわゆる病院言葉も、意識があり思考もできるけれど、話せず動けない人間からすれば、とんでもなく無神経であることも暴露されます。さすがはフランス物です。
この映画は、フランス映画。登場人物の誰もハッピーにはならないし、もちろんハッピーエンドでもありません。でも、人の一生って、もしかするとこんなものかもしれない。ハッピーエンドは、想像上の産物でしかないのかもしれません。
誰しも、「今は苦しいけれど・・・」「今は悲しいけれど・・・」と思い、幸せな明日を夢見ます。でも、もちろん明日には、苦しみも悲しみも去ってしまうかもしれないれど、それよりも「今」こそが、「苦しいけれど」「悲しいけれど」、もしかすると幸せなのかもしれない。
なぜなら、今わたしたちは「生きている」のだから。
モンテ・クリスト伯にはなれなかった、現代のダンテスの物語。
出演:マチュー・アマルリック,エマニュエル・セニエ,マリ=ジョゼ・クローズ,アンヌ・コンシニ,パトリック・シェネ
監督:ジュリアン・シュナーベル 2007年
原作:ジャン=ドミニク・ボビー
BOSS的には・・・★★★★☆
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