2009.01.15

Movies

VIER MINUTEN/FOUR MINUTES 邦題:4分間のピアニスト

若き女囚と刑務所の音楽教師とのやり取りを通して、人の成長と人生の意味、音楽と人との関係を描いたヒューマン・ドラマ。単に音楽映画としてしまうと、あまりにも曲解、矮小化されてしまいます。ドイツ映画。

刑務所で受刑者たちに音楽を教える80歳の女性教師トラウデ(モニカ・ブライブトロイ)。彼女自身かつて若かりし頃ピアニストに憧れていましたが、不幸な大戦を経て一人暮らしをしながら、今の職でつつましい生活をしています。

fore_minutes.jpgある日、受刑囚の中にピアノに興味を持つジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)という少女がいることを知り、彼女にピアノの手ほどきをしようとします。が、大きなトラウマを持った彼女はとてつもなく凶暴で粗野であり、厳格さが求められるクラシック音楽やピアノの授業はとてもできそうにない。しかし、ジェニーの中に何か光るものを見出していたトラウデは、なんとか彼女をピアノの前に座らせようと心ではなく「手を」尽くします。

トラウデは実は女性同性愛者で、大戦末期に愛人の共産主義者を死刑執行によって奪われ、片割れとなった心(ハート)を持ち続けて60年近く生きてきました。一方のジェニーは、幼い頃からピアニストになるべく教え込まれ、12歳の時にその夢が叶わぬと見た義父によって辱められ、そのことが原因で無実の罪を背負い込むことになります。

その人生のほとんどを、秘めてなお失われた恋と失意に耐えて生きてきたトラウデと、自ら抑えることのできない「怒り」の中だけに生きるジェニー。しかし二人は音楽を愛していました。ピアノという楽器を手段に、やがて二人は時代を超えて繋がり始めます。それは、理解と呼ぶにはあまりにも遠く、また共感というにはあまりにも個人的に。しかし、二つの魂が同じ時に同じ響きを感じあっている。

また学もなく、体制側にいながらもどちらかといえば落伍者でもある看守の1人は、オペラの言葉を覚えることで音楽を愛そうとします。この不器用な音楽へのアプローチも、ひとつの生き方の象徴であり、普通の人々の代表としての彼の存在は、この物語のひとつのキーでもあります。

この物語を、音楽讃歌、「音楽は人の心を溶かし、ひとつにする」なんて陳腐な言葉に昇華しようとすると、「なんてこっちゃ映画」になってしまいます。それよりも、人は心によって縛られ、心によって生き様を規定された悲しき動物であり、だがしかしその心が「たった4分間」でも解き放たれ、あるいは誰かの心とほんの一瞬でも触れ合うこと。それこそが、「生きる」ということの価値であり意味であることを教えてくれているような気がします。

ハリウッド的映画ファンや「のだめ」ファンからすれば「★」か「★★」、個人的には「★★★★★」のこの映画、あえてここでは「★★★★」とさせていただきます。

そして、クラシックというモチーフを単なるファンタジーではない「暗い歴史」ときちんと重ね合わせることのできるヨーロッパに今後も期待を込めて・・・。決して娯楽映画ではありません。

出演:モニカ・ブライブトロイ,ハンナー・ヘルツシュプルング,スヴェン・ピッピッヒ,リッキー・ミューラー,ヤスミン・タバタバイ

監督:クリス・クラウス 2006年


BOSS的には・・・★★★★

4分間のピアニスト [DVD]

おすすめ平均:3.5
3なにかがひっかっている。
5いい映画です。
5完璧!スゴイね・・・
3ちょっと端折りすぎ ^^
4過去と対峙し前へと進んでいく旋律

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