2009.03.14
明日への遺言
太平洋戦争中にB29のパイロットたちを処刑した為に、戦後B級戦犯として裁判を受けた岡田資陸軍中将の戦犯裁判を通した戦い、彼の言う「法戦」を描いた史劇作品。大岡昇平の小説「ながい旅」を元に、黒澤明の愛弟子と言われる小泉堯史が監督。古き良き日本人である主人公を、藤田まことが熱演。
終戦間近の昭和20年3月。アメリカは、それまでの軍事施設を標的にした爆撃から大きく方向転換し、一般人の住む都市部を無差別に爆撃するようになり、3月10日には有名な「東京大空襲」がありました。この空襲は、300機を越えるB29による爆撃が行われ、一夜にして100万人の被災者を出しました。
そしてその9日後、今度は名古屋の市街地に対する大規模爆撃、いわゆる「名古屋大空襲」が行われ、15万人以上が被災します。当時、この地を守っていたのが陸軍第十三方面軍であり、司令官は岡田資陸軍中将(藤田まこと)でした。
同年5月、再び来襲したB29爆撃機からパラシュートで脱出したパイロットら搭乗員27名に対し、司令官岡田は正式な裁判を経ない略式裁判によって部下に処刑を命じます。
3ヵ月後、日本は連合軍に無条件降伏し、彼は国際法違反(捕虜虐待罪)でGHQに捉えられ、巣鴨刑務所に投獄された後、B級戦犯裁判を横浜の地で受けることになります。
岡田の論理は単純明快でした。軍事施設だけを狙った爆撃を行ったものは捕虜、そうではないと疑わしいものは軍事裁判、間違いなく無差別爆撃、つまりハーグ条約違反に対しては略式裁判にて処刑。しかし、そもそも爆撃自体を条約違反とはみなしていないGHQとはまったくかみ合わない話でした。
そして彼は、自らの命を持ってこの事態を打開するしかないと理解し、また参謀大西大佐以下の部下たち若者を無事生きて世間に返すため、一人責を負い、一人で法廷闘争を行います。
「部下が行ったすべての行為について、責任を取るのは司令官である自分である。」
経営者である者、あるいはリーダーであるものにとって、とても重い言葉です。ズシリときます。
凛とした彼の清清しさとも取れるまっすぐな精神に、裁判官たちも柔軟な姿勢を見せ始め、彼の行為を米国法により許された、「復讐」ではないかと彼に問いかけます。
しかし、岡田は頭のてっぺんからつま先まで日本人そのものでした。彼は自分の行為は「報復」などではなく、正しく「処刑」であったと、つまり自らの損害被害に基づく反撃行為ではなく、人としてあるべきかどうかにかざした結果の処置であるとして、彼らの恩赦を拒みます。
こうして、清清しい心で処刑場へ向かった岡田が、「明日」、つまり現代の私たちに残そうとしたものは何なのか?
日本人だからとか言う偏狭なナショナリズムではなく、また戦争と言う悲劇性に対するまっこうの反戦論でもなく、真に人たるにはどうあるべきなのか?どう生きるべきなのか?
法廷被告席で、まっすぐに背筋を伸ばして裁判官ではなく、真実と理想に向かい合った岡田に、上杉謙信の言う「義」の姿を垣間見ました。
あなたには、どんな言葉が彼の遺言として残ったでしょうか?
出演:藤田まこと,富司純子,ロバート・レッサー,フレッド・マックィーン,リチャード・ニール,西村雅彦,蒼井優,田中好子
監督:小泉堯史 2008年
BOSS的には・・・★★★★☆
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