2009.03.02

Movies

The Sheltering Sky 邦題:シェルタリング・スカイ

自らの再生と、夫婦間の愛を取り戻すために砂漠の地を訪れた男女の運命と、命とは、愛とはを問いかけるヒューマンドラマ?アカデミーには候補にも上がらなかった、故淀川長治さんイチオシ、ベルトルッチ監督の入魂の一作。イギリス映画ですが、ある意味、イギリス映画です(笑)。

第2次世界大戦の終戦間もない1947年の北アフリカ。ニューヨークからやってきた作曲家のポート(ジョン・マルコヴィッチ)と妻で劇作家のキット(デブラ・ウィンガー)は、果たせぬ夢と失いかけているお互いの愛情を癒し再生する為に、文明社会と隔絶された砂漠の地にやってきます。結婚10年、彼らは「観光客ではなく旅行者」として。

the_sheltering_sky.jpgポートの友人でリッチな独身のタナー(キャンベル・スコット)を加えた3人は、列車やバスを乗り継いで、奥地へとサハラ砂漠を横断してゆきます。これまでの都会生活同様、ちょっとしたスリルに身をゆだねたポート、いい寄るタナーと一夜を共にするキット。しかしそこは彼らにとっても我々にとってもあたり前の世界、文明社会ではなかった。

どこまでも広がる美しい砂丘と、彼らをも包む広がる大空、シャルタリング・スカイ。しかしこれまでの日常との正反対のサハラは、彼らにひたすらに、真摯に生きることを強いてきます。

タナーを追いやり、二人で旅を続ける二人。微妙なすれ違いが埋まるかに見えた時、ポートは腸チフスにかかります。言葉も通じず、医者も病院もない砂の町で、キットは必死に彼を看るのですが・・・。

砂漠の地に到着直後から、二人は些細な夫婦喧嘩を始めます。おそらくニューヨークでもあたり前にやっていたように。しかしそんな些細な行き違いが、やがて運命と言う荒波となって彼らを襲います。あまりにも美しく、それと引き換えにとてつもなく厳しい本物の砂漠は、砂の城を築くことさえ許さず、弱弱しく偽善にあふれ自己中心的な人間たちを、いともたやすく粉々に砕いてしまいます。

この映画は、時折激しいセックスシーンが登場しますし、露骨なシーンもあります。最初、それらは「命と愛」とかのバランスを差し示すには、あまりにも不要なシーンだと思ったのですが、やがてすべてを失った人間がたどりつく「生と死」に直面した時、動物としてのヒトに残された行為であることに思い至ると、それはメビウスの輪のように永遠の循環を始めます。

「愛のない性」はふしだらであり、しかし「生存のための性」は必要である。だから宗教はもう一方の辺をつなぐ為に「愛」を訴えるのでしょうか?たしかにそれで、このトライアングルは閉塞されます。しかし、どこかの一辺が折れ、どこかの結実点がほころびた時、すべては風に運ばれる砂のように、明日にはもうそこには存在さえしなくなる。

こういうことが言いたかったのではないのかもしれませんが、ベルトルッチの撮るローアングルの砂漠の上に広がる空には、包むような優しさではなく、すべてが解き放たれる潔さと畏敬に近い恐さを感じました。

もう15年も前にこの映画を見て、「悲惨な映画、二度と見たくない」と思いました。恐らくその頃は、豊かなものに囲まれ、時には北風の心地よさも知らなかったのでしょう。この歳になり、今になってあらためて見直すと、実はとても深い映画だなと思いました。ちなみに音楽は、坂本龍一教授です。

出演:デブラ・ウィンガー,ジョン・マルコヴィッチ,キャンベル・スコット,ジル・ベネット,ティモシー・スポール

監督:ベルナルド・ベルトルッチ 1990年

原作:ポール・ボウルズ

音楽:サカモトリュウイチ

BOSS的には・・・★★★★

シェルタリング・スカイ [DVD]

おすすめ平均:5
5裏のマイベスト映画かも
5私はあなたを守る空になりたかった
5人生のドラマを感じる素晴らしい映画
4ストッラーロの映像美に尽きる
5わたしはこれを観てサハラまで行っちゃいました

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