2009.05.07
鬼龍院花子の生涯
昨年の大河ドラマ「篤姫」の原作者である高知県出身の直木賞作家宮尾登美子の中編小説を、「極道の妻たち」の五社英雄が監督。公開当時は夏目雅子のヌードシーンで有名になった大正から昭和の高知を舞台に、侠客鬼龍院政五郎とその娘花子の波乱万丈の生涯を、養女松恵の目線から描いた仁侠映画。
大正10年の土佐。松恵(仙道敦子)は侠客の大親分である鬼龍院政五郎(仲代達矢)、通称鬼政の養女となります。鬼政の身の回りの世話を命じられた松恵でしたが、彼には正妻の歌(岩下志麻)の他に、牡丹(中村晃子)と笑若(新藤恵美)という二人の妾がいました。
ある日、土佐犬の闘犬場で漁師の兼松(夏木勲)と赤岡の顔役である末長(内田良平)の間で悶着がおき、鬼政はその場を納めますが、末長は兼松の持ち犬を殺すという卑劣な手段に出ます。怒った鬼政は赤岡に出むきますが、そこには女房の秋尾(夏木マリ)しかおらず、末長は姿をくらましていました。帰りぎわに、鬼政はつる(佳那晃子)という女中を掠奪します。
この騒動に、大財閥の須田(丹波哲郎)が仲裁に入りますが、以降両一家は事あるごとに対立することになります。そしてつるは鬼政の妾のひとりとなり、初めての鬼政の子である花子(高杉かほり)を生みます。学問を目指し、鬼政の猛反対を押し切って女学校に進んだ松恵、一方で鬼政の寵愛を受けわがままし放題に育った花子。二人の人生は大きく違った道を歩み始めます。
ハリウッドだとマフィア物、日本だと任侠物になります。すごいです。全編で繰り広げられる土佐弁と、ラスト近くで出てくる阿波弁。聞いてるだけでもすごいです。内容もぶっ飛びですが・・・。ってか、出演者の名前を見ただけでも、すごいキャストです。
物語は、鬼政と彼の娘花子の数奇な運命を描いたものですが、これを幼女で花子の姉にあたる松恵の視点で描き語られます。松恵、そう若くして白血病でこの世を去った夏目雅子が演じています。この映画から3年後。そして公開当時、彼女の台詞「なめたらいかんぜよ!」が大流行しました。ちなみに彼女は同い年でした。(^_^;)
ですが、なんと言っても主演の仲代達矢の鬼政になりきった迫真の演技でしょう。本当に演技とは思えない。ある意味純粋であり、ひとつの側面としての「男」の苦悩と人生における戦いを演じきっています。瞬間瞬間の彼の表情、見てください。
そして、表情こそ少ないものの、なんとも美しい岩下志麻。彼女は芸者から鬼政の正妻となり、子を設けることなく若くしてその生涯を終えるのですが、彼女の立ち振る舞いのそこここに、鬼政や自分の人生に対す思いが、ひしひしと伺えます。太ももの刺青をなでるシーン、最高ですよね!こういうシーンで女心を表現できる五社監督も、ただの勢いだけの監督じゃないことがよく解ります。
この作品を見ていると、人の人生って運命づけられてしまっていて、自らの選択肢なんてほとんどないんだなと諦観してしまう。でも、だからこそ人は自ら描いた夢に向かって、もがき苦しむ。その光を追い求める時間、日々。これこそが輝かしき人生の、ある一日なのだと思います。
「鬼政にはなりたくないし、あんな男ではない。」と思ったものの、本当に自分の中に「鬼政」は住んではいないのか?女性なら松恵は、その心の中に住んではいませんか?
出演:仲代達矢,岩下志麻,夏目雅子,仙道敦子,佳那晃子,高杉かほり,中村晃子,新藤恵美,室田日出男,夏木勲,佐藤金造,アゴいさむ,梅宮辰夫,小沢栄太郎,役所広司,内田良平夏木マリ,山本圭,丹波哲郎
監督:五社英雄 1982年
原作:宮尾登美子
BOSS的には・・・★★★★☆
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