2009.07.09
KLIMT 邦題:クリムト
世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したウィーンの画家、クリムトの半生を描いた伝記ドラマ。鬼才クリムトを演じるのは「マルコヴィッチの穴」や「ジャンヌダルク」のジョン・マルコヴィッチ。世紀末ヨーロッパの退廃的な雰囲気や厭世的な思想の人々の会話も楽しめます。
1918年、ウィーンのとある病院。一人の画家がその生涯を終えようとしていました。彼の名は、グスタフ・クリムト。「ユディト」や「接吻」で知られる、官能の画家クリムトでした。脳卒中で倒れた彼を見舞う愛弟子のエゴン・シーレ(ニコライ・キンスキー)。そして消え行く意識の中で、自身の栄光と挫折を繰り返した半生が蘇ります。
1900年のパリ万博。故郷ウィーンではスキャンダルとなった彼の描く裸体の女性が、この博覧会で金賞に選ばれます。そしてそこで彼は、美しい踊り子レア(サフラン・バロウズ)に心を奪われます。恋人ミディ(ヴェロニカ・フェレ)の嫉妬をよそに彼女と密会を遂げるクリムト。そして彼女から肖像画の依頼を受けます。一枚は「洋服を着ているとは思えない着衣姿」、そしてもう一枚は「およそ裸体とは思えない裸体像」。
ウィーンに戻った彼は、かつてモデルをしていたミッツィ(アグライア・シスコヴィチ)に彼の子供が生まれたと知らされ、彼女に会いに出かけます。モデルたちに肉体的な愛を求める彼には、すでにあちらこちらに沢山の子供がいたのです。
愛欲を彷徨うクリムト。そして彼の魂は、パリで出会った宿命の女性レアだけに向いて開かれていたのでした。大使館の書記官に導かれて彼女を捜し求めるクリムト。しかしその書記官は、実在してはおらず、彼の心の声だったのです。次第に虚構と現実の狭間を彷徨うようになった彼は、いよいよあの大作、「接吻」に向かいます。
作品自体、個人的にはあまり好きではありません。ただマーラーと同じく、黙示録がまことしやかにささやかれた暗黒の世紀末を過ごし、言葉とロジックの嵐の中をずぶ濡れになりながらも自らのらしき魂を捜し求めたその生き様には、尊敬と共感を感じます。
マルコヴィッチが、この魂と愛欲の狭間、19世紀と20世紀の谷間で揺れ動く一人の稀有な画家を見事に演じています。クリムトの作品に多用される「ファム・ファタル」として描かれたレアとそのやり取りにはやや弱さを感じはしますが、妄想の中の回想的出来事としてみれば、2時間の中にうまく描かれていたと思います。
脚本もよく出来ていて、ずんずんと響きますし、衣装や内装、町の風景など当時の世相を楽しむことも出来ます。ある意味、地味な作家をモチーフにして、現代にも通じる想像の担い手の魂の彷徨を描いた、ちょっと癖はありますがいい作品です。
出演:ジョン・マルコヴィッチ,ヴェロニカ・ファレス,サフロン・バロウズ,ニコライ・キンスキー,ステファン・ディラーヌ
監督:ラウール・ルイス 2006年
BOSS的には・・・★★★☆☆
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