2009.09.30
モーリス・ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ(1899年)
季節変わりの雨の日には、静かなピアノの調べに身を委ねて。今日は、有名なラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」です。
ラヴェルは1875年生まれ。この曲が出来たのは1899年。代表作のひとつともいえるこの曲は、モーリス24歳の時の作品です。
タイトルにつけられた「亡き王女」とは、スペイン王フェリペ4世の王女であり神聖ローマ帝国の皇帝レオポルト1世の皇后であるマルガリータ・テレサ・デ・エスパーニャ、通称マルガリータ女王のことです。15歳でスペインからオーストリアに嫁ぎ、もうけた4人の子供のうち3人が1歳を待たず死亡。本人も21歳の若さでこの世を去ります。
彼女の姿は、父フェリペ4世とともにかのベラスケスの描いた数枚の絵画であまりにも有名です。
女官たち(ラス・メニーナス)1656年 プラド美術館
マルガレーテ 1659年 ウィーン美術史美術館
この絵を見てインスピレーションを得た若きラヴェルが作ったのがこの曲だったのです。
曲調やタイトルから、王女の悲劇を想像してしまいがちですが、ラヴェル自身が語ったところによれば、この表題は「王女の葬送の悲哀」ではなく、「かつてスペインの宮殿で、小さな王女が踊ったパヴァーヌ」だそうです。
そう思ってあらためて聞き直してみれば、優雅さと繊細さが渾然となった美しい調べに包まれます。
しかし全体には、亡き王女への断ち切れぬ思いと拭い去ることの無い悲しみを残して、涙のような霧雨の空に天使が舞い昇るように、夜のしじまに音がひとつ、またひとつと消えてゆきます。