2009.10.18
Miles Davis At Fillmore (1970)
いよいよ70年代に突入したわが帝王様は、3月に始めてロックの殿堂フィルモアのまずはイースト(NY)に登場(Live At Fillmore East)。続いて4月ウェスト(LA)に登場(LIVE AT THE FILLMORE EAST & Black Beauty)。そして2ヵ月後の6月には、再びイースト(NY)に登場します。
中山さんの「マイルスを聴け!」だとウェストの次に「Get Up With It」が紹介されていますが、これは1曲目に70年5月録音の「He Loved Him Madly」が入っているためで、全体的にこのアルバムは69年の問題作「Bithes Brew」を受けて、名うてのロックミュージシャンを向こうに回して丁々発止のこの時期ではなく、翌年以降のポスト・フィルモアを模索するマイルスの試験的アルバムでは?
で、今夜は3月に引き続き Fillmore East です。今回は1970年6月17日水曜日から20日土曜日まで。メンバーは、サックスが前回3月の出演とは異なりウェイン・ショーターに入れ替わったワン・パターン男のスティーブ・グロスマン。実はこのステージからキース・ジャレットが参加します。キーボーダー2人体制。チックは変わらずエレピに専念し、キースがオルガンを担当します。
アルバムは2枚組みで、1枚目が「Wednesday Miles」に「Tyursday Miles」、2枚目が「Friday Miles」に「Saturday Miles」と題され、水木がザビヌル作のDirectionsから、金土はなぜか「It's About That Time」から始まっています。
ただしこれはそんな風を装ってますが4日間のライブそのままではなく、それぞれの日の演奏のダイジェストと言いますか、あのテオが切ったり貼ったりした前後不覚の編集版なのです。もちろん、聴いてる素人の私にはわかりませんが、ナカヤマさんによるとブートにそれぞれのコンプリート版、つまり演奏開始から The Theme までの生録版が存在するそうです。(なぜか木曜日は世に出ていない)
こういうお話をすると、何の手も加えないオリジナル崇拝主義みたいな話になるのですが、実はこの時期のマイルスのアルバム、特に公式版はこのテオの編集があってあたり前で、どっちがいいという話ではなく、どっちもいいのです。
前置きが長くなりました。私のベスト・オブの一枚でもある本作の肝心の演奏は・・・。
まずはいつも聞いているボリュームの3割り増しにします。夜10時以降はヘッドホンにしてください。くれぐれも「かすかに響くセミの声」状態で聞いたりしないように。なんたって、マイルスさまの意気込みは、VUメーターぶっちぎりくらいテンション上がってたはずですから。
で、いつものDirectionsです。デジョネットのスティディなドラムにのって、チックとキースが縦横無尽に駆け巡ります。アイアートもホゲホゲやってます。そして御大、リングに登場!マイルスがピッと吹けば、ホール全体に稲妻が駆け抜けたかのような緊張感が走ります。あとは怒涛の嵐。
前回のイースト、そして西の模様(Black Beauty)とずいぶん異なるのは、マイルスの意気込みだけでなく、新しいバンドの全員の方向性がピシッと定まってきたこと。グロスマンさえも、目立たないけど明らかに進化してます。音がいいせいもあるでしょう。そして先にお話したテオの編集のせいもあります。
とにかく前作、前々作とは次元が違う演奏が、アルバム2枚に渡って続きます。もちろん、聴き終わるとこちらもどっと疲れます。サウナに入るとテレビでお気に入りのドラマが始まってしまい、見入って1時間ほど入っていたような、ぐったりと激疲労。しかし、さっぱりと激心地よさ。
ジャケットもかっこええですわ・・・
「やっぱマイルスなら So What か、My Funny。か、枯葉でしょう!?」
いやもちろんそれもいいですよ。ええ、どっちもいいんですよ。どっちもマイルスです。JAZZなんかじゃないんです。どれも、「マイルス」というジャンルの音楽、名演なのです。バンザイです。降参です。
おすすめ平均:
「浴びたい」人向け
1970年はマイルスが一番カッコ良かった年
火の玉のような渾沌
邪悪なエネルギーの洪水!
できれば8枚組位の未編集版を作って欲しくなる
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