2010.05.25
Etat De Siege 邦題:戒厳令
第2次大戦後のイデオロギー対立の先鋭化した南米ウルグアイを舞台に、戒厳令下の右派恐怖政治と左派ゲリラとの対峙を描いたドラマ。実施に起こったイタリア系アメリカ人の誘拐事件をモデルにして描かれています。フランス・イタリア合作。
1970年8月。南米ウルグアイの首都モンテビデオ。ある朝、イタリア系アメリカ人フィリップ・マイケル・サントール(イブ・モンタン)とブラジル領事ロベルト・カンポスは、軍部の掌握する右翼系政府と激しく対峙していた左翼都市ゲリラ「トゥパマロス」に誘拐されます。
マスコミに対し曖昧なコメントしか出さない政府に対し、進歩的な新聞社を主宰するカルロス・デュカス(O・E・ハッセ)は単独で調査を始めます。国際開発機関の交通・通信部担当技師ということで警察に籍をおいていたサントール、実は米国政府の命で進歩的左翼勢力を弾圧する目的で入国していたのでした。
サントールがブラジルや南米各国で左翼ゲリラ抹殺を指導指揮し、母国ウルグアイでも同様の立場であることを知ったカルロス。政府は市内に「戒厳令」を敷き、サントールがアメリカで教官を勤めていた秘密警察養成学校を出たロペス大尉(R・サルバトーリ)がその任にあたることになります。
20世紀初頭にスイスをモデルに社会経済改革を進め、「南米のスイス」と呼ばれるほど安定した福祉国家となったウルグアイ。しかし重工業化に遅れた体制は、朝鮮戦争特需の後は経済の衰退と国内の混乱が頂点に達します。
そして今度は「南米最強のゲリラ」呼ばれる「トゥパマロス」が勢力を拡大。一方の治安政府は労働人口の20%が治安要員の警察・軍隊という異常な警察国家体制を敷きこれに対峙するという状況になります。
1970年といえば、日本では戦後復興から経済成長を実感する「大阪万博」に沸いていました。そんな時に、南米ではこんなことが行われていたと言うのがまずは驚きです。
不安定な政治状況の中、国のありようが激しく揺れ動くその火種に、世界を二分する超大国の冷戦によるイデオロギーの対立が油どころか、ニトロをざぶざぶと注いでいたということなのでしょうね。
そんな暴風の中では、一人の人間の生き死になどは瑣末な問題、いや問題でさえもない。そういう役回りを、美男子イヴ・モンタンが渋く演じています。
ドキュメント・タッチの作品ですので、まあ面白くもおかしくもなく、また事実にもとずくため必要以上にハラハラドキドキもありません。平和ボケしてしまった今の私たちが見るのは、歴史的事実に触れると言う意味合いか、往年のイヴ・モンタンを見て懐かしむくらいでしょうか?
しかし時代やイデオロギーといった大きなうねりの前には、尊いはずの人の命など木の葉一枚ほどの値打ちしかなくなってしまうことを、やはり私たちは忘れるわけにはいかないでしょうね。
映像的には、ある意味フランス映画であり、またイタリア映画です。
出演:イヴ・モンタン,レナート・サルヴァトーリ,O・E・ハッセ,ジャック・ヴェベール,ジャン・リュック・ビドー
監督:コスタ・ガブラス 1973年
BOSS的には・・・★★☆☆☆
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