2010.08.23
ショパン 舟歌 変ヘ長調 作品60
クラシック音楽の主にピアノのための性格的小品(キャラクターピース)のひとつにバルカロール、日本語で言うところの「舟歌」があります。
ショパンもバルカロールとして本作一曲のみを世に残しています。1846年、当時彼はサンドとの関係がどんどんと悪化の一途をたどり、己の病状の悪化とあいまって、愛の断崖絶壁に立ちながら骨身に徹する寂寥と悲愁がにじむ名曲です。
日本では「最上川舟歌」で代表されるように、そもそもは舟をこぐのに調子よく口ずさむための曲であり、通常は2拍子系の6/8拍子が多いのですが、ショパンの舟歌は4拍子系の8/12。これはこの曲がより優雅に響くように工夫されたものといわれています。
調性自体は終始不安定に推移し、きらめくさざなみに見え隠れするショパン独特の深い悲しみが織り込まれています。
10分に満たない小品。しかし主題展開の緻密さや旋律・和声の優雅さにおいて、彼の晩年における完成度の高い作品のひとつでしょう。
心に思いを抱いたまま、月夜に漕ぎ出した小船の上で見るひと時の夢・・・。わずか3年後にはこの船で、彼は黄泉の国へと旅立ちます。
昼間の暑さを引きずる夜更けの空に、私たちの苦悶を冷ややかに見ている13夜の月の光に照らされて・・・。