2010.12.03
Letters from Iwo Jima 邦題:硫黄島からの手紙
太平洋戦争における硫黄島を死守する日本兵の姿を描いた戦争映画。「父親たちの星条旗」と対を成す「硫黄島2部作」。アカデミー賞音響編集賞受賞作品。
2006年の東京都下にある硫黄島。洞窟内で埋められていた数え切れないほどの手紙が発見されます。それらは、かつて70年前にこの島で祖国のために家族のために戦った兵士たちが書き残したものでした。
ミッドウェー海戦以降、制海・制空権をなくした帝国陸海軍の戦局は悪化の一途をたどります。フィリピンのレイテ島を攻略したアメリカ軍の次の標的となった硫黄島。1944年5月、栗林陸軍中将(渡辺謙)がここに指揮官として赴任してきます。
アメリカ留学経験のある彼の、帝国陸軍らしくない常識にとらわれないやり方に、古参の将校たちは反発します。航空機は本土に戻され、海軍の援護も獲られないと知る栗林は、島を防衛し続けることは無理だと判断し、1日でも米軍の侵攻を妨げるための徹底抗戦のため、島中に地下坑道を構築することを指示します。
その年の12月になると、上陸を想定したB-29の激しい爆撃が始まり、そして翌年2月19日、ついに激しい爆撃と艦砲射撃ののち、アメリカ海兵隊の上陸が始まります。その数、3万名。迎え撃つ日本軍は陸海軍あわせて2万。その中には、新兵の西郷(二宮和也)や清水(加瀬亮)の姿がありました。
基本的には史実にしたがって描かれています。ただ予算的な問題か、数万対数万の戦闘シーンは少なく、数百両に上るはずの双方の戦車も唯一、西中佐(伊原剛志)の九十七式中戦車(?)1台以外はまったく出てきません。
ベースには、兵士たちの書き残した本土への手紙と、そこに綴られた思いがベースになっており、またこの困難な状況に立ち向かった人間栗林と、若者西郷が中心となっていて、まあ方や指揮官、方や投降を企てる補充兵ですから、戦闘シーンなどはあっさりとしょうゆ味。
そもそも、2万人いた兵士たちは、もちろん敵のまさに陸海空からの攻撃により、またマラリアにより命を落とし、飢えと渇きを耐え抜いて最後は指揮官と共に数百名が夜襲をかけて1ヶ月続いた組織的な戦いは終わりを告げます。
硫黄島の戦いがアメリカ軍にとって記念すべき戦いとなったのは、戦死傷者数が日本軍2万に対してアメリカ軍2万8千余名(戦死者自体は7千名程度で、日本の2万よりは少ない)という事実でした。
両軍あわせて5万名近い兵士が死傷し、まさに死闘となった直径6kmほどの砂だらけの島。そういう悲惨さはかなり薄められています。この作品を見て初めて太平洋戦争の悲惨さとか硫黄島での出来事を知ったと言う若者がいるそうですが、まあ太平洋戦記初級の方には、このくらいが限界かもしれません。
かくいう私は、生々しい模様を特にハリウッドサイドで描いた作品をずいぶん見てきましたので、あまりのソフィストケートにある意味驚愕しましたが、21世紀の太平洋戦記はこういうものかもしれません。アメリカとは仲良くしていかないといけませんしね。
「戦局、最後の関頭に直面せり。 敵来攻以来、麾下(キカ)将兵の敢闘は真に鬼神を哭(ナカ)しむるものあり。 特に想像を越えたる物量的優勢をもってする陸海空よりの攻撃に対し、宛然(エンゼン)徒手空挙をもってよく健闘を続けたるは、小職自ら聊か悦びとする所なり。 しかれども飽くなき敵の猛攻に相次いで斃れ、ために御期待に反しこの要地を敵手に委ぬる外なきに至りしは、小職の真に恐懽(キョウク)に堪えざる所にして幾重にも御詫び申し上ぐ。 今や弾丸尽き水涸れ、全員反撃し最後の敢闘を行わんとするに当たり、熟熟(ツラツラ)皇恩を思い粉骨砕身もまた悔いず。特に本島を奪還せざる限り、皇土永遠の安らかざるに思い至り、たとえ魂魄(コンパク)となるも誓って皇軍の捲土重来の魁(サキガケ)たらんことを期す。ここに最後の関頭に立ち、重ねて衷情を披瀝すると共に、只管皇国の必勝と安泰とを祈念しつつ永えにお別れ申し上ぐ」
南の孤島から発信された栗林中将(戦死時は大将)から大本営宛の訣別電報は、なぜか本土最北端だった稚内通信所に傍受され、通信員が涙ながらに大本営へ転送したそうです。そういうことに心を動かされるのは、昭和生まれだからなのでしょうか・・・。
「古い人間だとお思いでしょうが、古い人間です。」
出演:渡辺謙,二宮和也,伊原剛志,加瀬亮,中村獅童,渡辺広,坂東工,松崎悠希,山口貴史,尾崎英二郎,裕木奈江
監督:クリント・イーストウッド 2006年
製作総指揮:ポール・ハギス
製作:クリント・イーストウッド,スティーヴン・スピルバーグ,ロバート・ロレンツ
脚本 アイリス・ヤマシタ
BOSS的には・・・★★★☆☆
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