2011.02.25
ドヴォルザーク チェロ協奏曲 ロ短調 作品104(1895年)
ドヴォルザークと言えば、交響曲第9番「新世界より」や弦楽四重奏曲の「アメリカ」が有名ですが、実はもうひとつ、一部のファンの間で「ドボコン」と呼ばれるコンチェルトがあります。それが今日ご紹介する「チェロ協奏曲」です。
チェロ協奏曲というのは、ピアノやヴァイオリンのコンチェルトほどメジャーではないのですが、逆にチェロ・コンチェルトと言えば、ハイドン、エルガーと並んでこの曲が有名なのです。
この曲が作られたのは1894年。彼が4年間に渡るアメリカでの生活を終え母国チェコに帰国した直後でした。ですから、彼の持ち味であるボヘミアの音色とアメリカ生活で触れ親しんだ黒人霊歌やネイティブ・インディアンの音楽が見事に結実された、「史上類をみない混血美人」(芥川也寸志著「音楽を愛する人に」)なのです。
一般的なコンチェルトの規範を超えて、異例とも言えるほどオーケストレーションされた曲であり、また特に木管楽器の独奏がその特徴となっています。
この曲を聴いたブラームスに、「人の手がこのような協奏曲を書けることに、なぜ気づかなかったのだろう。気づいていれば、とっくに自分が書いただろう。」と言わしめたこの曲には、実はドヴォルザークの秘めた想いが込められていたのでした。
彼がまだ若き頃から思いを寄せていた女性、それは夫人の姉であるヨセフィーナ・カウニッツ伯爵夫人。アメリカに滞在中の彼に、彼女が重病であるとの知らせが届きます。
かつてもう一曲の習作に終わったチェロ協奏曲を書いていた頃に、その想いの頂点だった彼は、この新しいコンチェルトに若かりし頃の、いや今も消えることのない彼女への想いを重ねていたのでしょう。
しかし彼女は、彼の帰国を待っていたかのように、1ヵ月後にはこの世を去ります。
あくまでも「逸話」です。でも、そんなロマンティックな背景を想像せずにはいられない、高貴とか高尚とかだけではない、彼の思いや優しさをチェロの旋律のそこかしこに感じる、とっても素敵な曲なのです。
オトコとはいつの世も、愛する女性のために詩を書き歌を作るイキモノなのです。