2011.03.24
Hero 邦題:靴をなくした天使
しがないコソ泥が、偶然出くわした航空機事故から乗客を救い出したことから巻き起こった騒動に巻き込まれるコメディ・タッチのドラマ。
塗料を盗んだ罪で6日間の保釈延長を言い渡されたバーニー・ラプラント(ダスティン・ホフマン)は、法廷で公選弁護人の財布から金をくすねるようなコソ泥。別れた妻妻エブリン(ジョーン・キューザック)と共に暮らす一人息子のジョーイと映画を観に行く約束の夜、航空機の墜落事故現場に出くわします。
機内からの声に悪態をつきながらも怪我をした乗客たちを助け出したバーニーは、大事な靴の片方を失くしたまま現場を去ります。
墜落した航空機に乗り合わせていたテレビ局のレポーター、ゲイル・ゲイリー(ジーナ・デイヴィス)は、自分を含めた54人の乗客を助けた命の恩人を探すことになります。そして放送局から100万ドルの賞金が出ることになります。
名乗り出る人間でごった返す局のホール。しかし決め手になったのは現場に残されていた片方の靴。そして事故の翌日、バーニーから靴を片方譲り受けたホームレスのジョン・バーバー(アンディ・ガルシア)がその人だということになります。
一方のバーニーは、機内から盗んだゲイルのカードをさばくはずがおとり捜査に引っかかり逮捕、留置場に放り込まれます。
バーバーはマスコミを通して恵まれない人や弱者の救済を訴え、多くの人に感動を与えて一躍「ヒーロー」に。一方、本当のヒーローであるバーニーは、留置場を出ても刑務所行きが決まっていました。
「ヒーロー」とは何か?というテーマに取り組んだ作品なのですが、真っ向からではなく裏口から。ということで、なかなか展開だけでは説得力に欠けます。
軽犯罪を繰り返しその生き方で妻からも見放された主人公が、ある日「魔が差して」人助け、それも人の命を救った恩人になってしまう。彼を客観的に大声で「ヒーロー」と叫ぶ者はいないけれど、命の恩人であることは間違いない。
一方、その行為を拝借してヒーローになりきった社会の最下層の者が、「ヒーロー」としての立場や発言権を得て、逆に社会に正義を施してゆく。彼は「ヒーロー」ではないのか?
結局、ただ一人の「ヒーロー」というのは人々の心に巣くう「ヒーロー登場願望」が重なり合って映し出す幻想でしかなく、本当のヒーローは普通に暮らす私たち普通の人間の心の中に正義と共に潜んでいる。それをまさかのときに表出できるかどうか、それがその人間の存在意義ということになるのでしょう。
その辺のことをきちんとアピールするには、ちょっと回りのキャスティングが弱いし、タッチが3流です。
つまりコメディタッチのヒューマン・ドラマではなく、ヒューマン・テイストのコメディだと思えば、さすがのダスティン・ホフマンの名演ひかる作品です。
皮肉屋さんのメッセージはマスコミにも向けられていて、彼らの作り出す虚像や虚構についても検証を求めています。そして行き過ぎた真実追求が、逆に真実から遠ざかるという危険に対する示唆も。
ジーナ・デイビス、「偶然旅行者」での演技が大好きですが、本作でもなかなか出すぎず引っ込みすぎずの演技でした。
ハリウッドらしからぬ、ダスティン・ホフマンらしい、ニューシネマにも通じる作品です。
出演:ダスティン・ホフマン,ジーナ・デイヴィス,アンディ・ガルシア,ジョーン・キューザック,ケヴィン・J・オコナー,モーリー・チェイキン
監督:スティーブン・フリアーズ 1992年
BOSS的には・・・★★★☆☆
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