2011.04.12
Fog Of War 邦題:フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白
ケネディ、ジョンソン大統領の下で国防長官を務め、パナマ危機からベトナム戦争時代を政治の中枢で過ごした一人のエリートの証言録でありドキュメント。アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞受賞作品。
1960年、アメリカ第35代大統領となったJ.F.ケネディにより国防長官に指名されたマクナマラは、全米一の自動車会社フォードの社長就任の数週間後でした。
就任二年後の1962年、政府はキューバ危機に直面します。ソ連との全面核戦争もやむなしの状況の中、機知により紙一重でそれを防いだケネディとマクナマラでしたが、翌63年にケネディは暗殺されます。
そして36代大統領となったジョンソン政権下でも国防長官を務めることになり、ケネディの意思を継いだ彼の手によって軍部の「人民統制(シビリアンコントロール)」が敷かれます。
しかし時代はまだ東西冷戦時代、そして対共産主義陣営とのにらみ合いが続いていました。その火種は東南アジアのベトナムでくすぶり、64年のトンキン湾事件によりアメリカは北爆を開始。翌65年には海兵隊を上陸させ、泥沼の戦いに突入してゆきます。
物語は、マクナマラの80余年の人生で得た11の教訓に沿って、キューバ危機とベトナム戦争を中心に彼の生涯をさまざまな映像やその時代のインタビュー映像などを交えながら、老いてなお闊達としたマクナマラとインタビューアーの対話を軸に進められます。
そして彼の11の教訓とは、
1.敵に感情移入せよ
2.理性は頼りにならない
3.自己を超える何かがある
4.効率を最大限に高めよ
5.戦争にもバランスが必要だ
6.データを集めよ
7.信条や見聞にはしばしば間違いが
8.論拠を再検証せよ
9.善をなさんとして悪をなすことも
10.決してとは決して言うな
11.人間の本質は変えられない
ハーハード大でMBAを取得し同校で教鞭をとり、大戦後はフォードに入社。社長の椅子にまで上り詰めますが、政府入りし合衆国が最も危機的な状況であった時代に国防を任された彼の教訓とは、およそMBAのものと言うよりは、クラウゼヴィッツに近い戦略、それも戦争戦略に関する教訓に近いものです。
しかし、戦争も製造と消費を伴いその経済性が求められるものだとすれば、あながち我々の日常と関係ないとは言えないし、確かにその教訓の多くは、我々経済にかかわるものが心しなければならないものが多くあります。
何よりも、アメリカと言うある意味強固で、別の側面から見ればバラバラな多民族国家を守ることを事実行ってきた彼の言葉には、それなりの重みがあります。
「ベトナム戦争はマクナマラの戦争」とまで言われた彼でしたが、決して好戦的な人間ではありません。彼は戦争が避けられない時代に、まっすぐにそれを捉えて生きてきた。彼は戦争は個人の問題ではなく時代の問題だと言います。
古代や中世の領土拡大のための戦いに明け暮れた時代でもなく、そういうことが当たり前に許されたのは20世紀の植民地時代まで。21世紀はそういう意味でも国際時代になりました。
ただ、合衆国がいまだに中東に軍事介入していることを危惧する人間も多くいること。そして軍事によらず稼いだ外貨で発展途上国に覇権し一方で軍拡を続けている某新興国も、いずれは何がしかの危機の淵に立つかもしれません。
出演:ロバート・S・マクナマラ
監督:エロール・モリス 2004年
BOSS的には・・・★★★☆☆
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