2011.04.17
THE SYRIAN BRIDE 邦題:シリアの花嫁
イスラエル占領下のゴラン高原からシリアへ嫁ぐ花嫁を通して、中東問題に翻弄される市民の暮らしを描いたドラマ。
イスラエルとシリアの国境に位置するゴラン高原。イスラエルによる占領で、この地に住むシリア人たちは「無国籍」となっていました。
イスラム教ドゥルーズ派の住民が住むマジュダルシャルス村。ここに住むモナ(クララ・フーリ)がシリアの人気俳優タレル(ディラール・スリマン)のもとに嫁ぐことになりました。
住民総出で進む伝統的な結婚の準備。しかし花嫁は不安で一杯でした。結婚相手をテレビを通してしか知らず、この地を出てシリアに入国すればたとえ結婚がうまくいかなくても、二度と故郷の地を踏むことは出来なくなるのです。
そして彼女の家族もさまざまな問題を抱えていました。彼女の父ハメッド(マクラム・J・フーリ)は、新シリアの政治活動で投獄歴があり、娘を見送るために国境である「境界」に行くことが出来ない。
信仰にそむいてロシア人と結婚した長兄ハテム(エヤド・シェティ)は、村の長老たちの反対でパーティーに参加できず、父親からは無視されます。そして花嫁を優しく励ます長女のアマル(ヒアム・アッバス)も、結婚生活に問題を抱えていました。
パーティーも終わり、花嫁を国境へと送り出す時がやってきます。警告を無視して別れに立ち会おうとする父ハメッド。そこに警官が立ちふさがり、彼を逮捕しようとします。
先日読み終えた「オリエンタリズム」で、西欧というかキリスト教世界から見たイスラム世界に対する偏見と差別を改めて理解したのですが、本作はそこから発生した「シオニズム」の狭間に取り残された人々の苦悩を、ユーモアを交えながら描いています。
私たちは「日本人」であることを当たり前だと思っていますし、パスポートに国籍日本と書かれていることに気づきもしません。しかし未開の地の人々は別にして、現在において自身が「無国籍」となってしまうことの不条理など思いもよらないことです。
そしてそういう不条理と言うか国家間の動じない問題に対してあからさまな抵抗証言をするのではなく、登場人物たちは窮屈な生活の中にも常に「希望」を見出す姿を静かに描いています。
そして本作はシリアによる告発作品ではなく、イスラエル・フランス・ドイツ合作映画です。
国家の都合で引かれる境界線、「国境」と鉄条網。カメラは美しい高原地帯と、そこに住む「無国籍」のシリア人たちを生き生きと描いています。
シオニズムとか国家間の問題を意識しつつも、生きること、明日を迎えることに希望を忘れない人々を描いた映画として、限りなく★4つに近い作品でした。
モントリオール世界映画祭グランプリ観客賞・国際批評家連盟賞・エキュメニカル賞、ロカルノ国際映画祭・観客賞、フランダース国際映画祭最優秀脚本賞・観客賞受賞作品。
出演:ヒアム・アッバス,マクラム・J・フーリ,クララ・ルーリ,アシュラフ・バルホウム,エヤド・シェティ,イヴリン・カプルン,ジェリー=アンヌ・ロス
監督:エラン・リクリス 2004年
BOSS的には・・・★★★☆☆
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